祖父に言語学者の金田一京助さん、父に国語学者の金田一春彦さんという、まさに言葉のプロの家系に生まれ育った金田一秀穂先生。そんな金田一先生は広く海外でも日本語教育に力を入れ、現在は杏林大学で外国語学部の教授を務めています。今回は日本語研究の第一人者である金田一先生に、漢字の持つ役割と魅力について多方面から語っていただきました。
そもそもなぜ私たちが使う日本語に漢字が必要なのか、という疑問を持ったことがある人も多いと思います。しかも日本語は漢字とカタカナと平仮名という3通りを併用しますよね。2種類ならまだしも、3種類もの表記体系を使う言語は他にありません。これは日本語の大きな特徴ですね。
では、なぜそうなったのか? 漢字の持つ役割は、大きく分けて3つあります。まず1つ目は「一語の区別を分かりやすくする」こと。日本語は一語の区別が非常に分かりづらいんです。例えば、「すもも も もも も もも のうち(李も桃も桃のうち)」という有名な早口言葉がありますが、これは「も」が8つも並ぶ。どこまでが一語なのか分かりづらいですよね。こんな時は平仮名の中に漢字も混ぜて書き分けていくことで、一語を認識していくのです。「ナイスな椅子」と書きたい時に、カタカナだけだと「ナイスナイス」になっちゃう。日本語は単語と助詞、助動詞の区切りが平仮名とカタカナだけでは分かりづらいんです。だから、一語を分かりやすくするために漢字が必要になる。漢字と平仮名、カタカナの3種類を使い分ける必要があるんですね。そんな世界でも稀な言語を、私たちは小さい時から当たり前のように学び、使いこなしているのです。
2つ目は「漢字の造語性」。どの国の言語にも、基礎語彙のカバー率というものがあります。例えばフランス語の場合、基礎語彙を1千語覚えるとカバー率は80%を超えますが、日本語は倍の2千語覚えても65%程度。日本語はカバー率が低いのです。フランスの新聞を読むには5千語ぐらいの基礎語彙があれば読めますが、日本の新聞をスラスラと読むには、1万〜2万語ぐらいの基礎語彙が必要です。
じゃあ日本人は語彙力が高いのかというと、そういうわけでもない。そこには漢字の造語性の働きがあるんです。漢字は組み合わせで使われるので、常用漢字を2千字ぐらい覚えておけば、ある程度理解できるんです。例えば、「平素」や「格別」という言葉自体の意味を知らなくても、「平」と「素」、「格」と「別」というように常用漢字を単体で分けて考えると意味が理解できる仕組みになっているのです。つまり2千字の漢字を知っていれば、1万〜3万語の語彙を理解できる仕組み。それが漢字の力であり、大きな役割。漢字は一字で成り立っているものだから、難しい熟語を知らなくても、一字ずつ分けて考えると理解しやすいんじゃないかな。漢字の意味を知ることで語彙力が向上しますよ。
成功の鍵は努力と才能というのが定説ですが、そのどちらでもなく“グリット”だという新しい説が出てきました。グリットとは、スポーツでも勉強でも、あるひとつのことを“やめられない強い気持ち”。僕はというと、本を読むのが好き。なんの生産性もないけど、“ただ読みたい”。強制的に何かをやらせることは、能力として役に立たないんだよね。まず好きっていう気持ちがないと何も始まらないのです。
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