2015年のクリスマスには、詩の朗読、音楽、ライブペインティングなど多角的な視点で魅せる公演「物語の生まれる場所 vol.2」を行った大宮エリーさん。そんな大宮さんが好きな漢字や、東京大学を目指すことになった経緯、大学受験での苦労や受験勉強中に出会った言葉について、お話をお伺いしました。
私が好きな漢字を挙げるなら、“仲良きことは美しきこと哉(かな)”の「哉」が好き。現代語訳だと“だよね〜”“〜じゃん”になりますかね。絶滅種ジャンルとしても好きな漢字です。また中学校の卒業式で、最後に先生が書いてくれた「真(しん)摯(し)」という文字は、漢字としても言葉としても好きですね。こんな難しい漢字をサラサラと書けるってすごい! かっこいい! と思ったのを今も覚えています。あまりにも感動して、学校から帰ってすぐに辞書で意味を調べましたもん。とはいえ今でもまだ書けないままですが。
漢字の大きな魅力のひとつに、この漢字じゃないと意味を伝えられないっていうのもありますよね。それに代わる言葉がないというか。でも覚えることが好きじゃなかったので、学生時代の漢字のテストは嫌いだったし苦手でしたね。でもクイズみたいにひとり黙々と漢和辞典を片手にその漢字の成り立ちを調べるのが好きで、漢字と向き合うその時間は好きでした。
中学生の頃、砂漠化が一気に進む地球の現状を追ったドキュメント番組をたまたま見たんです。植物が大好きだったので、砂漠に生息する植物を救う仕事がしたい!と思い立ち、数学が大の苦手だったんですが、高校では理数系のコースを選びました。
有名な私大は全教科ある程度の高い点数を取らないと合格できなかったんですが、私の時代、例えば数学が0点でも国語など他の教科で高得点を取り全体でならせば合格できると聞き、東京大学を目指すことにしました。
とはいえ、東大の国語の過去問は難しいものばかりでした。泉鏡花とか丸谷才一とかの難解な小説の抜き出し。でもそれを解いていくうちに、“平易に話そうとすることほど難しいことはない”みたいな例題にピンときたんです。“言葉を難しく書いちゃダメ”ってことを、とても難しく書いてありました。シンプルかつ簡潔にモノを書くことがどれほど難しいことか。この言葉は、私の今のベースになっています。
結局、現役合格は叶わず、東大に落ちました。浪人することになったんですが、予備校にも通わず宙ブラリンな状況。東大受験を諦めて他の私大も受けてみようと一度は思いました。でも、もう1回東大を受けないとそこから逃げた感じがするって強く思ったんです。それだったらもう一度受けてみようって、粛々と受験勉強を進めていきました。
勉強はとても苦労しましたよ。でも相性の合う参考書と出会い、自分のペースで向き合いながら勉強をして、翌年に無事合格。いい成功体験になったと思います。学びとしての達成感はありましたね。
1回失敗したらそこをクリアしないと、次に行けないと思ったんです。1回失敗したら、“私はまた絶対に失敗するんだ”って思い込んでしまうタイプだという自覚が強かったのでそこを克服したかったのもありますね。
卒業後はずっと言葉を扱う仕事をしていますが、今改めて感じていることは、言葉を扱うのには想像力が必要だということです。例えば、落ち込んでいる誰かを励ましたくて「がんばれ!」って声をかけることも、既に精一杯がんばった人には辛い言葉になってしまう可能性がある。直接会って、目を見て「がんばれ!」って伝えることとメールで送ることとでは、ニュアンスが違ってくる場合もありますし。言葉はいい面だけじゃなく、時に刃にもなりますからね。言葉で想いを伝える時は型通りではなく、相手を思いやる気持ちが一番大切だと思います。
物語や文章を書く時はパソコンでキーボードを打つのがほとんどなので、時にはメールではなく手紙を書くように心がけているんですよ。でもその時、まったく漢字が書けないことに気が付く。読めるけど書けない漢字がすごく多くなっていることに自分でも驚きますよね。だからたまに手紙を手書きしていると、頭がよくなった気がします。
新刊
『なんとか生きてますッ 2』
大宮エリー著/毎日新聞出版
発売中
vol.16 フリーアナウンサー 宇垣美里さん
バックナンバー
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vol.15 お笑いコンビ 和牛さん
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vol.5 金田一秀穂さん
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vol.4 向井千秋さん
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スペシャル対談 グローバル時代の日本語を考える
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vol.3 大宮エリーさん
- (前編)漢字は身近に存在する 雄弁な表現者
- (後編)時には刃にもなる。言葉を扱うには想像力が必要
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vol.2 厚切りジェイソンさん
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vol.1 つるの剛士さん