時代劇ドラマやCM、クイズ番組への出演などでおなじみの俳優・高橋英樹さん。読書や書、墨彩画を趣味とされ、演じること以外の表現にも意欲的に取り組まれています。前編では、時代劇の台詞を含めた言葉への強いこだわり、興味から学びを広げることの大切さを語っていただきました。
日本語ならではの「言葉の美しさ」というものを、私は普段から意識しています。言葉というのは「言霊」というくらい、魂を持って相手の心に響くもの。特に、時代劇や昔の歌には、美しい言葉がたくさん盛り込まれています。
若い方はあまり聴く機会もないでしょうが、例えば浪曲「森の石松」。「旅ゆけば、駿河(するが)の国に茶の香り、名題なるかな東海道、名所古蹟(こせき)の多いとこ…」と始まるんですが、まさに日本語の美しさが凝縮されていて、短い台詞なのに情景が鮮明に脳裏に浮かんでくるんです。独特の節回しで浪曲師の広沢(ひろさわ)虎造(とらぞう)さんが語られるのは、しみじみと感動させられます。
また、日本語には同じ意味を持つ言葉がたくさんあるところや、あえて直接的じゃない言葉で、受け手に想像させる表現ができるというのも魅力ですね。海外の方は意味をくみ取るのに苦労されるようですが、はっきりと言い切らずに、ほのめかすような表現には日本らしい「美」を感じます。もちろん、そうした表現を理解するためには受け手の読解力も欠かせませんね。
最近は、日本語らしい美しさや情緒ある表現よりも、内容のわかりやすさやリズムの方が重視される傾向があるような気がします。時代劇の台詞も、意味がわかりにくい古い言葉がたくさんあるので、どんどん現代語に変わってきています。でも、やっぱり私は、昔ながらの日本語の美しさをできるだけ残したい。だから、和歌にあるような趣のある言葉を羅列したり、昔の言葉を使いながら伝わりやすい表現に変えたりなど、現場ではいろいろと試行錯誤して台詞をアレンジしていますね。
日常で使う言葉も、外来語や略語が多くなってきていて、古くからある日本語表現は淘汰(とうた)されていっていますね。けれども、「澄み渡る空」や「ざわめく木々」、「川のせせらぎ」といった自然を描写するような言葉は、外来語では置き換えにくく、今も情緒ある日本語が使われています。若いうちにそうした表現にたくさんふれて、いろいろな語彙、いろいろな表現を知っておくと、それらが蓄積されて知識の土台になります。ちゃんとした土台があれば、大人になったときに精神的に豊かになれると私は思います。
知識を蓄えていくにはまず、言葉に興味を持ち、楽しむことが大切です。興味があれば、「もっと違う言葉を覚えたい」、「違う表現を身につけたい」と、学ぶ意欲が湧いてきます。私は、漢字の成り立ちがわかる辞典を見たりするのが好きなのですが、「さまざまな字が偏やつくりとして合わさってこの一字になったんだ」というようなことを知るとすごく面白い。さらに、その字をいろんな書家の方が書かれているのを見ることでさらに刺激を受け、自分もアレンジして書いてみたり、墨彩画まで描いたりするように。知ることで興味はどんどん広がり、実際に自分で表現するまでになりました。
知識の土台があると視野が広がって、感性も豊かになり、より研ぎ澄まされた表現ができるようになります。表現すべき核心を見きわめる力が備わり、余分なもの、過剰なものをそぎ落とすことができます。素晴らしい作品には、余計なものは一切かかれていません。役を演じることも同じで、そぎ落とした演技で、「あの人、表現してないんじゃないの?」と観客に思わせたときが最高の出来になります。そんな役者になりたい。学びが広がると、いろいろな発見があり、自分の世界は広がっていきます。これからもいろんなことに挑戦し続けたいですね。
私の母が言葉遣いに厳しかったせいか、娘の真麻は子どもの頃から言葉に敏感でした。アナウンサーという職業柄もあって、正しい言葉の使い方にはうるさく、私が「ら抜け」言葉を使うと、「違う!」とダメ出しが入ります。二人でテレビを見ながら、「この人、関西人?」なんて、発音もチェックしていますね。
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- (前編)守り続けたい日本語の美しさ
- (後編)興味を持つことが学びの原動力になる
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