ドラマ、バラエティ、クイズ番組などジャンルを越えて活躍するつるのさんは、俳優、歌手、アーティスト、将棋有段者など多彩な顔の持ち主。どんな仕事においても、自分の言葉で語ること、表現することを心がけています。そのきっかけとなったのが歌手活動。歌うことや歌を作ることで言葉の持つ力を実感、自分らしい言葉こそ魂を揺さぶると語ります。つるのさんが感じた言葉の魅力や可能性とは・・・。言葉にまつわる体験を交えながら、紹介していきます。
これまで数多くのアルバムを出してきましたが、歌手になろうとは思っていませんでした。ボイストレーニングはもちろん、カラオケさえも行かないというレベルだったのです。
ところが、出場した歌番組でたまたま優勝が続き、自ら「歌いたい」と思うようになりました。芝居はストーリーを展開するだけで数時間必要ですが、歌はほんの数分という短い時間で人の心に入り込む力がある。しかも涙まで流してもらえるスゴイ可能性を秘めているということに気付いたのです。
歌手としての活動当初はオリジナル曲を持っていなかったので、他の方の楽曲の中から素敵だと思ったものを選び、自分なりのフィルターを通して歌っていました。まずは楽曲の持つ魅力をきちんと届けたいという一心でしたね。
自分の感じたことを言葉と音で伝えたいなと思うようになって、オリジナル曲も歌うようになりました。作詞・作曲も手がけています。自分で歌を作るようになって、真っ先に感じたのは日本語の素晴らしさ。また、言葉(歌詞)とメロディに相性があることにも気付きました。メロディに乗った言葉は、相手の心への浸透力が違うような気がします。
同時に、言葉で思いを伝えることの難しさも歌詞を書くようになって痛感しています。ある程度まで完成した歌詞の残り2ワードがどうしても出てこないという時があるんです。この歌で伝えたい気持ちにピタッとくる言葉は何だろう?と本当に、絞りだすようにとことん考えます。だから、ハマる言葉を探し当てた時の爽快感は格別。ジグソーパズルの最後のピースをパチっとはめた時のような達成感ですね。同じ意味を持つ言葉はたくさんあるのに、この言葉じゃないとダメなんだという言葉の持つ不思議さ、奥深さに驚きを感じる瞬間でもあります。
また、どんなに素敵な言葉でも自分自身から出た言葉じゃなければ人の心には響かないことも、歌詞を書くことで知りました。等身大の自分の言葉を使わないと伝わりきらないのです。だから一つひとつの言葉を大切に表現していくことを心がけています。
今でこそ将棋好きとして知られていますが、父と指していた幼い頃は一度も面白いと感じませんでした。芸能界に入って地方への移動時にたまたま手に取った将棋ゲームで、将棋の奥深さにのめり込んだんです。将棋についての本を読みあさるうちに出会ったのが「一歩千金」という言葉。『歩』という駒は、一番働きの弱い駒なのですが、いったん相手陣地に侵入したら『金』と同じ働きをします。また持ち駒に『歩』が1枚あると、勝負所で急所を突く決定打を指すこともできるし、局面によって価値のある一手が指せる場合もある。そのような特長から、「一歩千金」は、たかが『歩』と侮らないで大切にしなさいという意味になったと知って、いい言葉だなと。将棋だけでなく人生において、どんな小さなことでも大切に扱っていきたいし、コツコツと努力を継続していきたいから、座右の銘としてこの言葉を心がけています。
これからも普段からカッコつけずに自分らしく生きて、等身大の言葉を使って、アーティストとしても一人の人間としてもステップアップしていきたいと思っています。
「僕の名字 “つるの” の “つる” の字は、皆さんの思い浮かべる『鶴』ではなく、『靏』と書きます。鶴の上に “雨冠” が付く漢字は見慣れないため、“つる” と読んでもらえることはほとんどありません。そのため芸名は親しみやすいようにひらがなにしました」と話す、つるのさん。入籍時や引越し先でも、「常用漢字にないので “雨冠” を “ウ冠” にしてください」と言われることがたびたびあるのだそうです。
「画数が多く難しい漢字とはいえ、生まれてからずっと使ってきただけに、ちょっと複雑な思いですね。でも子どもたちは“雨冠” の方が書いていて楽しいのか、画数が多い方の漢字を自然に受け入れて使っているようですよ」との言葉に、日頃からお子様の素直さに助けられている様子がうかがい知れます。
将棋のセオリーである定跡や手筋を勉強するのに、常にカバンの中に入っています。最近の必携はこの三冊です。どういう展開になるかわからない対局では、即座に役に立つということはないのですが、これらの本で根気よく反復練習をしていると、あの時見た手筋だなとかが自然にわかるようになってきます。
現在は三段で、将棋親善大使を務めています。
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寄せの手筋200
金子タカシ著
最強将棋レクチャー
ブックス -
角交換四間飛車を
指しこなす本
藤井猛著
浅間書房 -
将棋端攻め全集
大内延介九段著
将棋連盟文庫 -
つるの将棋七番勝負
つるの剛士著
幻冬舎 -
つるの将棋女流
七番勝負
つるの剛士著
幻冬舎
vol.16 フリーアナウンサー 宇垣美里さん
バックナンバー
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vol.15 お笑いコンビ 和牛さん
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vol.14 鈴木愛理さん
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vol.13 笑い飯 哲夫さん
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vol.12 光浦靖子さん
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vol.11 高橋英樹さん
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vol.10 メンタリストDaiGoさん
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vol.9 菊川怜さん
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vol.8 伊藤美誠さん
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vol.7 松尾依里佳さん
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vol.6 池谷裕二さん
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vol.5 金田一秀穂さん
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vol.4 向井千秋さん
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スペシャル対談 グローバル時代の日本語を考える
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vol.3 大宮エリーさん
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vol.2 厚切りジェイソンさん
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vol.1 つるの剛士さん
- (前編)言葉が持つ可能性、言葉が広げる未来
- (後編)好きなことへの熱中が成長につながっていく