雑誌や新聞で数々の連載を持ち、エッセイなどの書籍も数多く執筆するお笑いタレントの光浦靖子さん。話しているかのような読みやすい文章を書きたいという彼女に、テレビ番組で話すこととコラムなどを書くことの違い、言葉の選び方や使い方、文章を書くときに重視していることなどをお聞きしました。
学生時代は、文系科目が好きだったものの、作文は大の苦手でした。ところがお笑いタレントになって2年ほど経った頃に、雑誌のコラムの執筆依頼があり、いざ書いてみると意外とスラスラ書けたのです。自分でもびっくりしましたが、それまで舞台で漫才をしたり、番組でトークのやりとりをするうちに、自然と言葉を選び取る力が身についていたみたいです。芸能界は、不意にマイクを向けられて「どうですか?」と問われ、5秒以内に何か面白いことを言っておとさなければならないような世界ですから。特に、テレビのバラエティ番組は、進行のテンポが早く、単語一つで笑いをとるよう求められるときもあります。とはいってもとにかく難しい。その上、私も最近では老化してきて、単語のイメージは浮かんでいても、言葉が口から出てこないときも…(笑)。トークと違って、文章を書くときは自分のペースでじっくり考えて言葉を選べます。最初に執筆したときにそのことに気づき、書くことが初めて楽しいと思えました。
書くときに心がけているのは、読みやすさ。音読したときに、つっかえないような文章にしています。本当は、伝えたいことを深く描写しながら、文章全体に心地よいリズムの波があるようなものを書けたらいいけれど、まだまだ力不足で、込み入った描写をすればするほど、文章がもたついてしまいますから。それなら、読みやすさを優先したい。ひらがなばかりだと読みにくくなるので、漢字とのバランスにも注意しています。漢字は、字そのものに意味があるので、伝わるスピードが速くて便利。好きな漢字は「楽」。ラクで、しかも楽しいって、なんて素晴らしいの!?って思います(笑)。
文章を読みやすくするために、リズム感を大切にしているのですが、トークとは違ってなかなか難しい。例えば、話すときの畳みかけるような、勢いのあるスピード感を文章化しようと思っても、ひらがなが続くと読みにくいので読点を打つ。そうすると、勢いがなくなるんですよね。せめて、文章に発音記号みたいな強弱の印が付けられたらいいのに…なんて思ったりも。「あの人の言い方が面白かったのに、文章ではぜんぜん再現できない」なんてことが多々あります。
言葉選びにおいても、文章の場合は形に残る分、語彙の正確性がよりシビアに問われます。例えば、「テレビを見て一人で爆笑」と書きたいけど、厳密にいうと「爆笑」とは、大勢の人がどっと笑うことだから正しくない。となると、「一人で大笑い」?それでは、のどか過ぎる。じゃあ、「笑い倒す」とか?…などと、悶々と格闘しています。
なかでも執筆の仕事で一番苦労しているのは、字数の調整です。雑誌のコーナーなどの決められた枠の中に、きっちりと文章を収めなければなりません。エピソードを入れて綴るには字数がオーバーしてしまうし、エピソードを入れずにテーマについて語ると数百字足りないなど、文章構成を考えるときに字数との兼ね合いで「帯に短し、たすきに長し」といった状況によく陥ります。しかも、次々に原稿の締切が迫って来るので大変ですね。
そういった意味では、学生の方は仕事としてでなく文章を書けると思うので、まずは字数なんかを考えず、自由にのびのびと書いてもらいたい。じっくりじっくり考えて、長ったらしい文章を(笑)。そうすることで、自分らしい文章の節のようなものができてくるのではないかと思います。
小学生の頃は、よく学級文庫を読んでいました。本が好きというより、読書ノートにシールを貼れるのが嬉しかったんです。そこから読書の習慣が身についたのかもしれません。書くのは大変なので、やっぱり読むほうが楽しくていいですね。特に小説が好きです。いま一番好きな作家は、村田沙耶香さん。新刊が出るのが待ち遠しいです。
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- (後編)似て非なる、話すリズムと文章のリズム
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