日本人初の女性宇宙飛行士として、1994年と1998年の2度にわたり宇宙へと飛び立った向井千秋さん。宇宙から見た地球の美しさ。選ばれし者のみが体験できる不思議な無重力世界。そして、地球に居る人々と、連歌を通してコミュニケーションを取りたいと考えた経緯など、貴重なお話をお伺いしました。
初めて地球を見た時はあまりの美しさに、自分が住んでいる故郷「地球」とそこに住んでいる自分が誇らしくなったほどです。“私が住んでいる場所はこんなにもきれいな場所だったんだ!”って。生まれ育った故郷と同じく、離れたからこそ感じる郷愁の念もあったと思います。
そして2度目の宇宙飛行時に思ったことは、“重力のない世界のおもしろさや不思議さ”をどうにかして地球上のみんなと共有したいってこと。なぜなら、これまで宇宙飛行士からのメッセージは、“地球には国境がない”、“青い地球”、など一方向だなと感じていたからです。そこで、特に普段から詠む習慣があったわけではないのですが、誰でも気軽に参加しやすい連歌というツールを使ってコミュニケーションを取ることを思いついたんです。“上の句を私が詠んで、下の句を募集するのはどうか?”って、スタッフに相談しました。
そこで詠んだのが、「宙返り 何度もできる 無重力」。“私は宇宙の無重力をこんな風に感じたけどみんなはどう思う?”って対話形式にしたんです。そうしたら14万5千通を超える応募をいただき、「水の鞠つき できたらいいな」「月の世界で シャル・ウィ・ダンス」など、可愛らしいものからロマンティックなものまで幅広い句を皆さんが考えてくれました。そんな中、医者であるにも関わらず私が想像できていなかった印象的なものが、「乗せてあげたい 寝たきりの父」「任せてみたい 動かぬ体」という句でした。重力の重みから解放されたことを想像すると、こんな風に考えるんだって思うと泣けてきましたね。そこまで想像が及んでなかったことに、この連歌でのやり取りで気づかされたんです。
そんな無重力の世界はとっても不思議でとってもおもしろい世界です。重力のある地球上で生活していると当たり前過ぎて意識すらしないことも、重力があるからこそできることがたくさん!例えば部屋にカーテンがかかるのも、服が体にフィットするのも、テーブルにカップを置けるのも、水が排水溝へと自然に流れるのも全部重力があるから。ボールペンひとつ取っても重力がないとインクが落ちてこないから文字が書けないんですもの。一つの動作に対して、“これは重力が関わっていることかな?”って考えてみるのも興味深い勉強になると思いますよ。
そう考えると、重力がないと表現の幅が随分少なくなるってことがわかります。逆に言えば、重力があるからこそ成り立つ表現や語がとても多いんです。例えば、「滑る」「転ぶ」「跳ねる」「上る、下がる」「月が登る、陽が沈む」「置く」「落ちる」、また「雨が降る」「川が流れる」とかね。そう考えるとおもしろいでしょ?もしひとつの小説から重力が関わる表現をすべて排除したら、物語が成立しないかもしれませんよ。
宇宙飛行士になったきっかけは、新聞で見つけた「日本人の宇宙飛行士募集」の小さな記事。1983年、当時私は32歳でした。その頃、宇宙飛行士はアメリカやロシアの軍人が就く仕事、というイメージだったので、“日本人が宇宙飛行士になれるんだ!”って大興奮。医者や研究者が地球上のいつもの仕事を宇宙でできることに体が震えるほど感激し、一切の迷いなく応募しました。“宇宙飛行士”という職業に飛び込むというより、自分の目で地球を見てみたかったんです。
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