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私の好きな漢字と漢検 vol.13(前編)般若心経から芽生えた“漢字愛” 笑い飯 哲夫さん

 人気お笑いコンビ「笑い飯」の哲夫さんは、仏教に精通していることでも有名で、2009年に初の著書『えてこでもわかる笑い飯哲夫訳 般若心経』を発行しています。普段、お経をつらつらと書き綴りながら、そこに出てくる漢字からお笑いのネタを探すこともあるそう。そんな哲夫さんの漢字愛について語っていただきました。

笑い飯 哲夫(わらいめし てつお)さん1974年奈良県生まれ。関西学院大学出身。吉本興業所属。相方・西田幸治さんとともに、2000年にお笑いコンビ「笑い飯」を結成。「NHK上方漫才コンテスト」最優秀賞、「ABCお笑いグランプリ」優勝、「オートバックスM-1グランプリ2010」優勝、「上方漫才大賞」大賞を受賞するなど、数々の受賞歴がある。芸人としての実力はもちろん、独自のセンスにも注目が集まる。

般若心経が好きなことを長年隠していた

 子どもの頃、先祖の月命日にお坊さんが自宅に来て、お経をあげてくれていたんですよ。ええ声で、たまにかっこいいフレーズが出てくるのを「うわ、しっぶー!」と思いながら聞いていたんです。でも、こんな年齢でお経が好きだなんて変だと自分でも思ってて、周りには隠していました。高校生になって、授業で倫理の話を聞いたときに、「やっぱり仏教の教えってオモロイ」と思って、自分で調べるようになりましたね。
 大人になってからもお経が好きだということは恥ずかしいことだと思っていて周囲には黙っていました。でも手を動かしていると何か浮かぶかな、漢字から何か発想できるかなと思って、ネタ作りの最中に般若心経を書くことがあったんです。そうしたら、とある番組でカバンの中を抜き打ちでチェックする企画があって、般若心経が書かれた手帳を見られてしまったんです。そこからいじられるようになりまして。ま、そのおかげで般若心経の本を書いたり、大学で仏教講座をさせていただいたりしています。
 実は一般的に使われる言葉の中には、仏教用語がたくさんあるんです。例えば「醍醐味(だいごみ)」。よく「人生の醍醐味は~」という風に使われますが、仏教の悟りにおいては、最終段階を表す言葉です。牛や羊の乳を発酵させる五つの段階で、最高に美味であることも意味します。この言葉は、幼稚園のときに好きだった「醍醐さん」とのちょっと恥ずかしい思い出も重なって、僕にとっては思い入れのある言葉ですね。

幼少期の漢字遊びで発想が柔軟に

 漢字に興味を持ち始めたのは小学生の頃かな。熱心に勉強した記憶はあまりないんですが、今になって思い返すと、部屋の中に貼ってある漢字の一覧表を眺めたり、子ども向けの漢字辞典を見たりとかはしてましたね。特に「森」や「競」などの画数が多い漢字にシビれまして、そういうやつを見つけては広告の裏に書いて練習していました。あと、「ニセ漢字」とかいって、百画ぐらいある字を自分で作っていました。そういう子どもの頃に遊びでやっていたことが、今、大喜利を考えたりネタを作ったりするベースになっているのかもしれません。
 漢字は、一文字ごとに意味があるんです。その意味を予想してから調べるのがオモロイ。例えば、般若心経に出てくる「能」という字。これは英語でいう「can(できる)」だろうなって思っていたんです。その予想のもと、現代語訳辞典で調べてみると、確かにそうだった。「ほ~ら、みてみぃ」と、予想が当たったときはものすごく気持ちいいんです。それを繰り返すうちに快感を覚え、年齢とともに漢和辞典が好きになっていきました。難しい漢字なのに、意味が少ししか書かれていないやつもあったりね、気の毒になりますよね(笑)。

「耳に心がある、まるで僕のような漢字」

「愛」「恋」「忠」など心がつく漢字は、内面的なことを表します。中でも特に好きなのは「恥」。耳に心があるやつが、恥ずかしがり屋なんですよね。僕もそう。耳に心があるから読経をかっこよく思ったし、それが恥ずかしいから隠していました。しかし謎なのが「葱(ねぎ)」。なんで「心」があるのか、いまだに解明できない……。

<笑い飯哲夫さんの新刊ご紹介>
『みんな、忙しすぎませんかね?
しんどい時は仏教で考える。』

釈徹宗 & 笑い飯 哲夫 著
株式会社大和書房
定価(本体1500円+税) 
四六判並製 272頁 8月1日発売

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