印象的なキャッチコピーや書籍『思いを伝えるということ』『生きるコント』、NHKの伝説的コント番組『サラリーマンNEO』の演出、またラジオのパーソナリティーなど多方面で活躍する大宮エリーさん。言葉を時に洒脱に時に軽妙にもてなし、読む人や聴く人の心をわしづかみにしています。言葉と丁寧に向き合う彼女ならではの視点から、漢字の新しい魅力を発見できるお話をうかがいました。
主に言葉を扱う仕事をしている私が特に漢字を意識したのは、学生時代の漢文の授業でした。ひとつの漢字の部首などをいろいろな角度から切り取って紐解く授業がすごくおもしろかったんです。そこから漢字に興味を持ち始めた記憶があります。
今でも覚えている漢詩は「獨釣寒江雪(独り釣る寒江の雪)」。詩も短いですが、漢詩はたった5文字で情景を伝える表現力を持っていますよね。漢字の中にはいろいろな表現の可能性が眠っている気がします。
例えば「おそれ」。漢字だと「畏れ」「怖れ」「恐れ」などさまざまな表現があります。「おびえる」も「怯える」「脅える」など。
私は文章や物語を書く時、そのシーンに漂う空気にはどの漢字が一番合うかということをいつも考えるんです。まるで舞台の配役を決めるように文章の中の漢字を選んでいます。
漢字自体のフォルムのおもしろさやデザイン性、またそれぞれを構成している小さな漢字たち、すなわち部首もいて、漢字には雄弁に表現できる豊かさがありますよね。漢字にすることでニュアンスが変わってくるので、そこも日本語のおもしろいところだと思っています。
ものを書く時に漢字も選びますが、漢字にするか平仮名にするかも常に考えています。「つぼみ」と「蕾」。なんか雰囲気が違いますよね? この“つぼみ”は、昨年私が出した童話集『物語の生まれる場所』から派生し、曲にもなったタイトルです。「つぼみ」と「蕾」…、悩んだあげく、童話というコンセプトだったので最終的に平仮名にしたんです。また同書にある「古時計は言いました」というお話。“ある夜、時計がピタリと止んで、古い時計は、喋(しゃべ)ったさ”の一文の“喋った”は、わざわざルビを振って漢字にしました。“喋った”という字は、口偏に「世」に「木」というパーツで成り立っています。“長針と短針を髭(ひげ)のように震わせて いきなり時計は喋ったのさ”も“髭”を漢字にしてるんです。
子どもに読み聞かせるお話ですが、私の中では「髭」を漢字で書くと“髭の絵”に見えてくるんです。平仮名の“ひげ”だとそのまま流れていってしまうけど、漢字だと記号にも絵にも見えてくるからそこで引っかかる感覚。
「お婆(ばあ)さんと星」という物語では、“婆”を漢字にしました。「婆」という漢字は波に女と書きます。これも不思議ですよね。なんで皺に女じゃないの? って。でもこの物語は、人生に行き詰まったら必ず海辺に立って夜空の星を見上げるお婆さんのお話だったので、“波”と“女”が似合うんです。平仮名だとそういうニュアンスは出ないですよね。
また“行き詰まる”も漢字にしているんです。漢字にすることで、本当に苦しんでいる感じが出るでしょ?
漢字を入れることで、他のたくさんの言葉を書かなくても済む。それは漢字がその状況を雄弁に表現してくれるからだと感じています。とはいえ漢字ばかりだと重くなるので、いいポイントで入れてキュッと締める。大舞台にひとりでスポットライトを浴びている感じですね。
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