公益財団法人 日本漢字能力検定協会

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漢検漢字文化研究奨励賞

2023年度(第18回)受賞者発表・講評・論文

2023年度 漢検漢字文化研究奨励賞 受賞者

各賞受賞者(敬称略)論文タイトル講評
最優秀賞 Zisk, Matthew Joseph
(ジスク マシュー ヨセフ)
東北大学大学院
国際文化研究科 准教授
訓点語の文法化―漢字・漢語による模倣借用との関連から―
pdf論文PDF(2.21MB)
講評
優秀賞 該当無し
佳作 杉山 勇人
(スギヤマ ハヤト)
鎌倉女子大学短期大学部
准教授
漢字の字体・字形の正誤基準に関する考察
―戦後の学力調査にみられる漢字書き取りテストの分析を通して―
pdf論文PDF(2.91MB)
講評
佳作 大島 英之
(オオシマ ヒデユキ)
東京大学大学院
人文社会系研究科
博士課程学生・日本学術振興会特別研究員
漢字字体と慣用音―「萌」の字音の変遷を例に―
pdf論文PDF(1.16MB)
講評

講 評

公益財団法人 日本漢字能力検定協会 漢字文化研究所所長
漢検 漢字博物館・図書館 館長
京都大学名誉教授
阿辻 哲次

 令和5年度漢検漢字文化研究奨励賞は厳正な審査の結果、以下の通り受賞者が決定した。受賞された方々に対して心よりお祝いを申しあげる。
 この事業は、(公財)日本漢字能力検定協会が主催する事業のひとつとして、わが国の文化に深くかかわる漢字と日本語(国語)に関するすぐれた研究または評論・教育方法の開発などを顕彰し、研鑽をたたえ、その成果を世に広めるための制度として平成18年にはじまったもので、今回は第18回目となる。
 思いかえすことすら忌まわしいが、新型コロナウイルスによる疾病が蔓延して社会が未曾有の混乱に陥り、研究活動でも登下校や図書館の利用などにまで制約を受けた時期があったが、そんな状況下でも本事業には憂うべき特段の変化はなく、ほぼ例年通りの数の投稿があった。
 それはまことに喜ばしい事実であり、そして災禍が表面的にはひとまず平穏化したと見える現在、これまで以上に積極的な研究活動が随処で展開されているよう見受けられる。
 とりわけ弱冠15歳の学徒が周到な調査をともなった論考を投稿してこられたことに、審査員と事務局一同は深い感銘を受けた。近年のめざましい情報化社会進展にともない、漢字研究にもいま新しい波が押し寄せていて、漢字文化を扱ういくつかの学会に熱意と斬新な視野をもった10代の研究者が多数参加し、旺盛な研究活動に取り組んでいる。そしてそれと同じように、この事業からも若い世代が積極的に研究に邁進する姿を看取できたことに、関係者一同は斯学の大いなる発展を感じ取った。
 だがそれとは別に、今回の投稿には残念な事由によって審査対象から除外された論考があったことにも触れておく必要がある。
 ある論考には中に大きな空白があった。空白の前後に投稿者は所論のデータを整理した「表」に言及するが、しかし「表」はどこにも見いだせず、その表が配されると思量される場所に、大きな空白があった。
 おそらく投稿用データを作成する段階で表の挿入に何らかの過誤が生じ。その部分が空白になったことに投稿者は気づかなかったのだろうが、表が欠落し、そこに1ページにも及ぶ大きな空白があることを提出前のチェックで見過ごしたのは、投稿者の重大な過失である。
 別の論考は、投稿者がしばらく前に某学会誌に発表した論考とまったく同一内容のものであった。本事業は一定の条件のもとに既発表論考の応募を可能としているが、既発表論考の中で投稿者はある先行論文を参照できなかったことが「きわめて残念」であると述べている。だがその先行論文が、今回は時間的に十分に参照可能だったにもかかわらず依然として未読のままであり、そして今回も投稿者はそれを参照できないことを「極めて残念と感じる」と述べている。当該論考は過去の発表から今回の投稿までの時間において、まったく研究面で深化しておらず、放置されたまま研究が停滞していると審査員は判断した。
 疫病の危機はいまだに予断を許さないが、最悪の事態を脱しつつあるいま、いっそうフレッシュで独創的な研究がこれまでより一篇でも多く投稿されることを、関係者一同は切望する。


最優秀賞 Zisk, Matthew Joseph(ジスク マシュー ヨセフ)
「訓点語の文法化 -漢字・漢語による模倣借用との関連から-」

 本論文は、漢文訓読を契機として生じた表現形式を体系的に捉えて整理したうえで、特に「文法化」との関わりが強い、派生借用語と借用統語という形式に着目し、これまでの個別に扱われてきた文法現象の位置づけを目指した論考である。
 訓点語研究の歴史は長く、昭和30年代から急速に発展し今日に至っているが、現在の日本語学、日本語史学のなかではやや特別視される向きもある。訓点語研究は、文献資料に基づく実証的方法を軸として行われてきたが、漢文に訓点を施した文献資料(=訓点資料)の多くは仏教経典であり、また漢籍の古鈔本であって容易に解読できるものではないことから、当該文献資料を深く理解していなければ議論に参加することが難しく、日本語史研究一般の議論に馴染みにくい側面があった。
 本論文は、この閉塞的とも映るような状況を打開した画期的な論文として、高く評価し得るものである。すなわち、訓点語研究の文法現象に関わる知見を「文法化」という一般言語学の枠組みのなかで定位させることにより、言語一般に潜む法則性の解明という議論の場に訓点語研究の成果を巻き込むことに成功にした。
 応募者は、かつて優秀賞を受賞しており、その後の発展が嘱望されていたが、その期待を裏切ることなく優れた論文を着実に発表し続けてきた。研究手法の美点も失われることなく受け継がれているが、今回の応募論文は、この優秀賞の水準を凌駕する秀逸な論考と認められる。優秀賞受賞から今日に至るまで不断の努力がこのような形で結実したことを、審査員一同、心より喜ばしく思うものである。

(山本 真吾)

佳作 杉山 勇人
「漢字の字体・字形の正誤基準に関する考察 -戦後の学力調査にみられる漢字書き取りテストの分析を通して-」

 戦後の各種の学力調査の類における漢字書き取りテストの「字体」「字形」に関する正誤の判断基準について、主だった事例をよく集めたうえで、細かく丁寧に分析を加えて記述を行った実証的な論考である。戦後の漢字に対する採点基準に関する資料としての価値も高い。
 列挙された具体的な事例や指摘された問題点から、調査目的によって基準が緩められたり厳しくされたりしてきた点、時間の経過とともに変遷している点に加えて、調査機関が文部(科学)省なのか否かといった点など複数の要素が絡み合いながら差異が生じていたことが明らかとなった。さらに文字の本質的な伝達機能と筆記習慣を重視する戦後の漢字政策を具体化した「常用漢字表の字体・字形に関する指針」の特質と役割も明確化された。
 本稿は、社会的な関心が高い漢字教育における指導と評価の問題について、これからの方向を示すまとまった成果ともいえる。今後、諸分野の先行研究や各種の一次資料をさらに参照していくことで、漢字政策史、漢字教育史における個々の正誤の基準の位置付けがより明確となることが期待できる。

(笹原 宏之)

佳作 大島 英之
「漢字字体と慣用音 -「萌」の字音の変遷を例に-」

 日本漢字音には、呉音・漢音・唐音といった伝来音の出自では簡単に説明のつかない「慣用音」なるものがある。現行の漢和辞典などで「慣用音」とされているもののうち、その後の訓点資料(字音資料)の用例によって出自が明らかになったものや、偏や旁の音からの類推による誤読に基づく音と説かれる事例などが報告されているが、この「慣用音」については未解決の問題がなお残されている。
 本稿は、「萌」字が日本漢字音でミャウ・マウ・バウの音形が期待され、それぞれ呉音、漢音のいずれに属するかについて、漢和辞典の間でゆれの認められる事実の指摘から説き起こし、古代から中世、そして近世以降に至るまでの膨大な文献資料の中から、読みの判る用例を博捜し、これを丹念に整理・分析し、時代毎の音形の特徴を記述した論考である。とりわけ中世から近世にかけての慣用音のホウへの定着には「萌」の字体が「萠」と書かれることを契機としていることを実証した点は注目に値する。
 日本漢字音史研究の領域において、慣用音と字体との関係に着目するという観点から新たな光を当て、問題の所在を明確化したうえで、論と証とを緊密に結びつけた、説得力に富む好論であると評価される。他の若手研究者にとって模範となる論文であり、佳作と認めた。今後は、さらに射程を拡げ、残された問題の解明に取り組むことが期待される。

(山本 真吾)

2023年度(第18回)実施概要

趣旨

 漢字研究、漢字に関わる日本語研究、漢字教育など、広く漢字文化に関わる分野における優れた学術的研究・調査等に対して、その功績をたたえ社会全体に広く公表していく制度です。
 将来一層発展することが有望視される、若い世代の清新な学究の優れた研究論文を選考し、更なる深化を奨励するため、懸賞論文形式の「漢検漢字文化研究奨励賞」を設定します。

対象

◆漢字研究または広く漢字に関わる日本語研究であること。

◆将来、一層の研究・調査の深化、発展が期待できる若い世代の研究(者)であること。

◆応募者本人が日本語で作成し、48,000字以下の分量であること。但し、図表、注、参考文献、引用文献は字数に含めない。

◆過去3年以内に公表した論文(※)も対象とする。但し、既に他で受賞した論文は対象外とする。

  • ※2020年4月1日以降に提出または刊行したもので、著書の場合は論文が元となっているものを対象とする。

選考委員

阿辻哲次  京都大学名誉教授、(公財)日本漢字能力検定協会 漢字文化研究所 所長

笹原宏之  早稲田大学社会科学総合学術院教授

山本真吾  東京女子大学現代教養学部教授   (五十音順/役職は2023年4月現在)

  • ※投稿論文によって各専門分野の研究者に選考を依頼することがある。

表彰

正  賞 ・・・・・・・・・・・ 表彰状

副  賞 ・・・・・・・・・・・ 奨励金

  1. 漢検漢字文化研究奨励賞 最優秀賞 100万円
  2. 漢検漢字文化研究奨励賞 優 秀 賞  50万円
  3. 漢検漢字文化研究奨励賞 佳   作  30万円

※但し、該当なしの場合もある。

※最優秀賞の副賞については所得税法に従い、所得税等の源泉徴収額を差し引いた上で支払う。

授賞式  2024年3月下旬予定(詳細は後日案内)

応募について

  1. 応募条件
    ・応募締切日時点での満年齢が45歳未満であること。
    ・共同執筆の場合は、応募締切日時点ですべての執筆者の満年齢が45歳未満であること。
    ・共同執筆の場合は、それぞれの執筆分担を論文中に明記すること。
    ・投稿は一年次につき一篇とします。ただし特別の理由がある場合は、事情を斟酌することがあります。
    ・過去に本賞に応募した投稿論文にほとんど修正を施さずに再応募したものは審査対象になりません。
     ただし、本賞の趣旨に沿うように精査し大幅な加筆修正を加えたものは、この限りではありません。
  2. 応募方法
    以下の3点を揃え、応募締切日までに郵便または宅配、もしくはEメールに添付して提出してください。
    1. excel『応募用紙』(当協会所定のもの/75.3KB)

      ※共同執筆の場合は、執筆代表者のみ当協会所定のものを提出してください。
      他の執筆者は、共同執筆者用応募用紙に記入し提出してください。

    2. excel『応募論文の概要』(当協会所定のもの/21.5KB)
    3. 『応募論文』
      応募論文は次のいずれかの形式でご提出ください。
      1. ワープロ等で作成し、印刷出力したもの(他誌掲載論文の抜刷やコピーは不可)
      2. ワード・一太郎仕様のデータUSBまたはCD-ROM
      3. ワード・一太郎仕様のデータまたはPDF(Eメール添付の場合)

      ※『応募用紙』、『応募論文の概要』は、当協会ホームページ(http://www.kanken.or.jp/)からダウンロードするか、電話もしくはFAXにてお問い合わせください。

      ※応募書類一式は返却しませんので、あらかじめコピーをお取りの上、ご提出ください。

      ※Eメール添付の場合、レイアウトの保持・表示・印刷が可能なファイルフォーマットに変換した上で提出してください。

      ※応募論文の末尾に、図表、注、参考文献、引用文献を除いた本文の文字数を明記してください。

  3. 応募締切日
    2023年10月31日(火)(協会必着)

選考と結果通知

◆「漢検漢字文化研究奨励賞」選考委員会による選考を行います。
 結果通知…2023年12月下旬

◆受賞論文は当協会刊『漢字文化研究』に掲載するほか、当協会のホームページや機関誌、書籍等、当協会が適当と認めた媒体で発表します。

◆選考結果は封書にて連絡いたします(共同執筆の場合は執筆代表者へ送付)。

※受賞対象とならなかった場合は、その理由は開示いたしません。

応募先・問い合わせ先

〒605-0074 京都市東山区祇園町南側551番地
公益財団法人 日本漢字能力検定協会「漢検漢字文化研究奨励賞」係
TEL:0120-509-315 月~金 9:00~17:00(祝日・お盆・年末年始を除く)
Eメール:kbk(at)kanken.or.jp  ※(at)は@に置き換えてください。

●個人情報に関する注意事項●

  • 記入して頂いた個人情報は、「漢検漢字文化研究奨励賞」に関わる業務にのみ使用します。
    (ただし、本件に関わる業務に際し、業務提携会社に作業を委託する場合があります。)
  • 個人情報の記入は任意ですが、必須項目に記入がない場合は申請の受理ができないこともございますので、
    ご注意ください。
  • 個人情報に関する開示、訂正等のお問い合わせは、下記の窓口へお願いします。
    公益財団法人 日本漢字能力検定協会 個人情報保護責任者 事務局長
    個人情報相談窓口 https://www.kanken.or.jp/privacy/

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