漢検漢字文化研究奨励賞
平成28年度(第11回)受賞者発表・講評・論文
平成28年度 漢検漢字文化研究奨励賞 受賞者
各賞 | 受賞者(敬称略) | 論文タイトル | 講評 | |
---|---|---|---|---|
最優秀賞 | 該当無し | |||
優秀賞 | 該当無し | |||
佳作 | フジタ タクミ 藤田 拓海 |
二松学舎大学非常勤助手 | 「乾(カン)」「乹(ケン)」字考 論文PDF(461KB) |
講評 |
佳作 | ミウラ ナオト 三浦 直人 |
明治大学大学院文学研究科 史学専攻日本史学専修 博士前期課程2年 |
伊藤博文をハクブンと呼ぶは「有職読み」にあらず―人名史研究における術語の吟味― 論文PDF(491KB) |
講評 |
講 評
京都大学大学院人間・環境学研究科教授
公益財団法人 日本漢字能力検定協会 評議員
阿辻 哲次
平成28年度漢検漢字文化研究奨励賞は厳正な審査の結果、以下の通り受賞者が決定した。受賞された方々に対して心よりお祝いを申しあげる。
この事業は、(公財)日本漢字能力検定協会が主催する事業のひとつとして、わが国の歴史を通じて文化に深くかかわる漢字と日本語(国語)に関するすぐれた研究または評論・教育方法の開発などを顕彰し、研鑽をたたえ、その成果を世に広めるための制度としてはじまったもので、今回は第11回目にあたる。
思えばもうずいぶん昔のこととなったが、かつてこの賞に応募する投稿論文が非常に少なく、そのために締め切りを延長して再募集せざるを得なかったということもあった。あるいは一定の年数の制限を設けて、すでに公表された論文の投稿も可能になる制度も設けた。それらのことがあって、うれしいことに回を追うごとに投稿論文数は増えつづけ、そして論考の質もずいぶん高くなった。
今回も高い水準を備えた論考が9本寄せられた。残念ながら受賞の対象とならなかった論考の中にも、これまでと同様に、興味深い研究がいくつもあった。しかしそれは、たとえば外国の教育機関における日本語教育で学習者に提供される漢字の選定方法に関してなど、問題の設定が日本における漢字と日本語の文化に関する研究という、本事業が目的とする領域からいささか逸脱していたり、あるいは国語学のうちの非常に狭い範囲に特化した専門的な問題を扱った論考であったり、あるいは設定した主題に対して著者みずからが「よくわからないので教えを請う」と表白するなど、論文としての未熟さを感じさせるなどの理由などで、受賞にいたらなかった。
年を追って本奨励賞の存在が広く認知されるようになり、ここ数年は大学院在籍中の若い研究者、あるいは現職の大学の若手教員などを中心として、投稿論文の質がめざましく向上してきたことは、関係者一同が深く喜びとしてきたところである。
だが今回は、すでに大学において教授職にある研究者による投稿が複数本あったのに対して、若手研究者からの論考が例年に比べると少なかったのが残念であった。また学術組織ではなく、民間の会社や組織に所属する研究者からの投稿がなかったことも残念である。
世間には、さまざまな問題意識を持って平素から漢字と深くつきあっている方々がたくさんおられると見うけられる。そのような方々からも、フレッシュで独創的な研究の成果が一篇でも多く投稿されることを、関係者一同は切に希望している。
佳作 藤田 拓海
「乾(カン)」「乹(ケン)」字考
漢字には、それが表している意味によって異なった字音で読みわけられる、「破音字」と呼ばれる現象がある。よく知られているものでは、「楽」は「たのしい」という意味の時には「ラク」と読み(楽園・快楽)、ミュージックという意味の時には「ガク」と読む(音楽・楽器)のがそれで、同様に例として、「乾」は「かわく」意味の時には「カン」と読み(乾燥・乾物)、易の卦に由来し、天とか陽という意味を表す時には「ケン」と読む(乾坤・乾元)とされてきた。そしてそれとは別に、「乾」にはほかに「乹」という形の文字があって、両者は同一字種における異体字の関係にあるとされてきた。
本論考はこれまで常識とされてきた、「乾」が破音字として二種類の字音を持つこと、そして「乾」と「乹」が同一の字種で字形が異なる異体字であること、の二点に対して徹底的な検証をおこない、さまざまな文献を周到に渉猟して、両者がもともとはまったくの別字であったことを論証し、そしてそれが異体字と認識されるようになった経過を詳細に跡づけた。その論理の展開はまことに明快であり、結論に導く過程にも疑問の余地はなく、審査員一同は授賞の対象であるとの評価に一致した。
(阿辻 哲次)
佳作 三浦 直人
「伊藤博文をハクブンと呼ぶは「有職読み」にあらず ―人名史研究における術語の吟味―」
「有職読み」という用語が日本の人名を音読みすることを指すようになった史的経緯について、種々の文献の探究により、実は比較的近年の現象であったことを明らかにし、その背景などを検証した論考である。その変化、流布と定着について跡づけることで、古来の用語が一般向けの書籍やインターネットなどにおける新たな言説を通じて、その意味内容を「もっともらしさ」の感じられるものへと変える事象を見出し、通行の言説に修正を迫る一篇として意義が認められた。一部の論旨、表現に関して、論文としてより適切なものをとの意見もあり、また人名を音読みする行為については今なお世上で各種の意識をもってなされており、その歴史に関しても他に参照することが望ましい資料などがあるが、その堅実な考証力をもってすれば、さらに検討を加えていくことが十分に期待されるものであり、漢字文化研究奨励賞佳作の受賞に相応しいものと評価された。
(笹原 宏之)
平成28年度(第11回)実施概要
趣旨
漢字研究、漢字に関わる日本語研究、漢字教育など、広く漢字文化に関わる分野における優れた学術的研究・調査等に対して、その功績をたたえ社会全体に広く公表していく制度です。
将来一層発展することが有望視される、若い世代の清新な学究の優れた研究論文を選考し、更なる深化を奨励するため、懸賞論文形式の「漢検漢字文化研究奨励賞」を設定します。
対象
◆漢字研究または広く漢字に関わる日本語研究であること。
◆将来、一層の研究・調査の深化、発展が期待できる若い世代の研究(者)であること。
◆応募者本人が日本語で作成し、48,000字以下の分量であること。但し、図表、註、参考文献、引用文献は字数に含めない。
◆過去3年以内に公表した論文(※)も対象とする。但し、既に他で受賞した論文は対象外とする。
- ※平成25年4月1日以降に提出または刊行したもので、著書の場合は論文が元となっているものを対象とする。
選考委員
阿辻哲次 京都大学大学院人間・環境学研究科教授
笹原宏之 早稲田大学社会科学総合学術院教授
森 博達 京都産業大学外国語学部アジア言語学科教授
山本真吾 白百合女子大学文学部国語国文学科教授 (五十音順)
表彰
正 賞 ・・・・・・・・・・・ 表彰状
副 賞 ・・・・・・・・・・・ 奨励金
- 漢検漢字文化研究奨励賞 最優秀賞 100万円
- 漢検漢字文化研究奨励賞 優 秀 賞 50万円
- 漢検漢字文化研究奨励賞 佳 作 30万円
※但し、該当なしの場合もある。
※副賞は所得税および復興特別所得税の源泉徴収額を差し引いた上で支払う。
授賞式 平成29年3月下旬予定(詳細は後日案内)
応募について
- 応募条件
応募締切日時点での満年齢が45歳未満であること。
共同執筆の場合は、応募締切日時点ですべての執筆者の満年齢が45歳未満であること。
共同執筆の場合は、それぞれの執筆分担を論文中に明記すること。 - 応募方法(自由応募)
以下の3点を揃え、応募締切日までに郵便または宅配、もしくはEメールに添付して提出してください。- 『応募用紙』(当協会所定のもの/245KB)
※共同執筆の場合は、執筆代表者のみ当協会所定のものを提出してください。
他の執筆者は、共同執筆者用応募用紙に記入し提出してください。 - 『応募論文の概要』(当協会所定のもの/47KB)
- 『応募論文』
応募論文は次のいずれかの形式でご提出ください。- ワープロ等で作成し、印刷出力したもの
- ワード・一太郎仕様のデータFDまたはCD-ROM
- ワード・一太郎仕様のデータまたはPDF(Eメール添付の場合)
※応募書類一式は返却いたしませんので、あらかじめコピーをお取りの上、ご提出ください。
※Eメール添付の場合、レイアウトの保持・表示・印刷が可能なファイルフォーマットに変換した上で提出してください。
- 『応募用紙』(当協会所定のもの/245KB)
- 応募締切日
平成28年10月31日(月)(協会必着)
選考と結果通知
◆「漢検漢字文化研究奨励賞」選考委員会による選考を行います。
結果通知…平成28年12月下旬
◆受賞論文は当協会刊『漢字文化研究』に掲載するほか、当協会のホームページや機関誌、書籍等、当協会が適当と認めた媒体で発表します。
◆選考結果は封書にて連絡いたします(共同執筆の場合は執筆代表者へ送付)。
応募先および問い合わせ先
〒605-0074 京都市東山区祇園町南側551番地
公益財団法人 日本漢字能力検定協会「漢検漢字文化研究奨励賞」係
TEL:0120-509-315 月~金 9:00~17:00(祝日・お盆・年末年始を除く)
Eメール:k-kikaku(at)kanken.or.jp
※(at)は@に置き換えてください。
●個人情報に関する注意事項●
- 記入して頂いた個人情報は、「漢検漢字文化研究奨励賞」に関わる業務にのみ使用します。
(ただし、本件に関わる業務に際し、業務提携会社に作業を委託する場合があります。) - 個人情報の記入は任意ですが、必須項目に記入がない場合は申請の受理ができないこともございますので、
ご注意ください。 -
個人情報に関する開示、訂正等のお問い合わせは、下記の窓口へお願いします。
公益財団法人 日本漢字能力検定協会 個人情報保護責任者 事務局長
個人情報相談窓口 https://www.kanken.or.jp/privacy/
事業・活動情報
- 普及啓発・教育支援活動
-
調査・研究活動
-
漢検漢字文化研究奨励賞
- 2024年度(第19回) 実施概要
- 2023年度(第18回)受賞者発表・講評・論文
- 2022年度(第17回)受賞者発表・講評・論文
- 2021年度(第16回)受賞者発表・講評・論文
- 2020年度(第15回)受賞者発表・講評・論文
- 2019年度(第14回)受賞者発表・講評・論文
- 平成30年度(第13回)受賞者発表・講評・論文
- 平成29年度(第12回)受賞者発表・講評・論文
- 平成28年度(第11回)受賞者発表・講評・論文
- 平成27年度(第10回)受賞者発表・講評・論文
- 平成26年度(第9回)受賞者発表・講評・論文
- 平成25年度(第8回)受賞者発表・講評・論文
- 平成24年度(第7回)受賞者発表・講評・論文
- 平成23年度(第6回)受賞者発表・講評・論文
- 平成22年度(第5回)受賞者発表・講評・論文
- 平成21年度(第4回)受賞者発表・講評・論文
- 平成20年度(第3回)受賞者発表・講評・論文
- 平成19年度(第2回)受賞者発表・講評・論文
- 平成18年度(第1回)受賞者発表・講評・論文
- 漢字・日本語教育研究助成制度
- 京都大学×漢検 研究プロジェクト
-
漢検漢字文化研究奨励賞
- 日本語能力育成活動