漢検漢字文化研究奨励賞
平成25年度(第8回)受賞者発表・講評・論文
平成25年度 漢検漢字文化研究奨励賞 受賞者
各賞 | 受賞者(敬称略) | 論文タイトル | 講評 | |
---|---|---|---|---|
最優秀賞 | 該当無し | |||
優秀賞 | 該当無し | |||
佳作 | いしい くみこ 石井 久美子 |
お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科博士後期課程2年 |
『安愚楽鍋』における振り仮名の研究 論文PDF(614KB) |
講評 |
佳作 | おやま しん 尾山 慎 |
奈良女子大学文学部 准教授 |
訓字主体表記と略音仮名 論文PDF(358KB) |
講評 |
佳作 | りー こうぜん 李 孝善 |
京都大学大学院 人間・環境学研究科博士課程2年 |
韓国『千字文』書誌 論文PDF(4.9MB) |
講評 |
講 評
京都大学大学院人間・環境学研究科教授
公益財団法人 日本漢字能力検定協会 評議員
阿辻 哲次
平成25年度漢検漢字文化研究奨励賞は厳正かつ公平な審査の結果、受賞者が決定した。受賞された方々に対して心よりお祝いを申しあげたい。
この事業は、公益財団法人 日本漢字能力検定協会が主催する事業のひとつとして、わが国の歴史を通じて文化に深くかかわる漢字と日本語(国語)に関するすぐれた研究または評論・教育方法の開発などを顕彰し、研鑽をたたえ、その成果を世に広めるための制度としてはじまったもので、今回は第8回目にあたる。
ここ数年は投稿論文数が順調に増え、昨年は17本もの投稿論文を得たのが、今回は全体で8本と、いささか残念な応募状況ではあった。だが投稿論文数こそ昨年にはおよばなかったものの、論文内容の質は今回も高い水準を維持しており、率直にいえばかつて散見された「箸にも棒にもかからない」質のものは皆無であった。それだけ投稿論文が精選されてきたことのあかしでもあって、本奨励賞が若き研究者たちのあいだでしかるべき評価を受け、研究者としてのファイトをかきたてるものとして定着しつつあることを実感できた。
今回の受賞論文は別記載の通りで、残念ながら最優秀賞と優秀賞については該当がなかった。論考において扱われるテーマがいささか局面的であり、広範な研究領域における一部分を対象としたものと認定されたのがその主要な理由であって、今回の論考をふまえてさらに研究を拡大し、あわせて深めていくことが期待される。
残念ながら今回は選に漏れた論考の中にも、まことに興味深い論考がなかったわけではない。とくに、ある論文については審査員全員が非常に高い評価をあたえたのだが、さらにもう一歩踏みこんだ研究が展開されれば、これまでにない非常に大きな成果が発揮できると期待されることから、今回での評価を見送り、今後の再投稿を俟つこととした。ほかのいくつかの論考も、真摯かつ十全な調査は達成されているものの、全体にわたって調査と集計レベルに終始していて結論の部分が希薄で、論考というよりはむしろレポートと認定するべきであるという理由などで、残念ながら受賞にいたらなかった。学術論文に要求されるのは、なによりもまず周到な調査の結果をふまえての精密な分析と総括なのである。
本奨励賞の存在が、特に大学院在籍中の若い研究者に知られるようになって、回を重ねるごとに論文の質がめざましくあがってきた。さらに日本人研究者のみならず、外国から日本に留学している若き学徒たちにも広く認知されてきた。本奨励賞がこれからの東アジア漢字文化の発展にいささかなりとも寄与する礎となる可能性を秘めていることは、審査にあたったものの一人としてまことに喜ばしい限りである。
佳作 石井 久美子
「『安愚楽鍋』における振り仮名の研究」
明治初期に木版印刷によって刊行された仮名垣魯文作『安愚楽鍋』を主たる資料として、その登場人物の会話部分を中心に据え、そこに見られる振り仮名、振り漢字などの表記について分析を行った論考である。複数の検討を通して、視覚的表現の上でそれらの表記が効果的に機能していることがあり、交ぜ書きや部分ルビなども登場人物の語りの特徴を表現し、さらに彼らの人物造型に役立っているとの見解を導き出しており、その意欲的かつ実証性をもった研究により佳作の受賞となった。関連するすべての用例について使用数など数値を示したほうがよいこと、また当時における表現効果の証明、各種表記と語の性質との関連についての一層の分析、江戸時代における諸作品の振り仮名などのより多くの資料における使用例も合わせた検討、さらに訛音、当て字などに関する先行研究のより一層の参照・引用など、さらに工夫と検討を施すと良い点も認められたが、人物像の表現などに関する新鮮な視点をもって漢字表記研究を展開させていくことが期待されたものである。
(笹原宏之)
佳作 尾山 慎
「訓字主体表記と略音仮名」
当該論文は、主に『万葉集』の訓字主体表記歌巻における略音仮名の使用実相を追究し、それらが仮名主体表記歌巻でも主用されている字母であり、しかも二合仮名と両用されるような字母は多用されていないという。また他の一字一音仮名と接近して使用される場合が多く、略音仮名として認識しやすい環境にあったと説く。実証的で優れた論文である。
ここに音韻的な検討が加われば、さらに議論が深まったと思われる。例えば、訓字主体巻と仮名主体巻からそれぞれ上位十五字種の略音仮名が列挙されているが、大多数は中国中古音のng韻尾字である。なかでも、「能・等・登・曽・騰」というオ列乙類音が多く、逆にオ列乙類音にはこれらの仮名しか用いられていない。
ただし全体的には、調査が緻密で結論も穏当であり、古代における書くこと・読むことの展望も見渡した好論である。
(森博達)
佳作 李 孝善
「韓国『千字文』書誌」
当該論文は、朝鮮時代以後に韓国でオリジナルに著された36種の『千字文』のデータベースを構築し、周興嗣『千字文』や韓国教育漢字1,800字などと用字を比較・分析したユニークな力作である。なによりも36種もの『千字文』を網羅・解説した労を評価したい。
韓国における『千字文』の普及の広がりと多様さに驚くと同時に、韓国『千字文』の比較・分析により、背景にある文化の変遷を窺うことができた。また、漢字教育の側面からも意義深い。
今回の論文は「基礎資料篇」に相当する。今後は未知の韓国『千字文』の収集を継続し、用字の分析のみならず、書物の内容と文化面における意義を考察した「研究篇」が期待される。
(森博達)
平成25年度(第8回)実施概要
趣旨
漢字研究、漢字に関わる日本語研究、漢字教育など、広く漢字文化に関わる分野における優れた学術的研究・調査等に対して、その功績をたたえ社会全体に広く公表していく制度です。
将来一層発展することが有望視される、若い世代の清新な学究の優れた研究論文を選考し、更なる深化を奨励するため、懸賞論文形式の「漢検漢字文化研究奨励賞」を設定します。
奨励対象
◆漢字研究または漢字に関わる日本語研究。
※漢字に関わる研究を広く対象とする。
◆将来、一層の研究、調査の深化、発展が期待できる若い世代の研究(者)であること。
◆応募者本人が日本語で作成し、48,000字以下の分量であること。
(ただし、図表、註、参考文献、引用文献は字数に入れない)
◆既に他に公表した論文(過去3年以内)も対象とする。
- ※平成22年4月1日以降に提出または刊行した著書を対象とする。
- ※著書は、論文が元になったものを対象とする。
- ※他で受賞した論文は対象外とする。
選考委員
阿辻哲次 京都大学大学院人間・環境学研究科教授
笹原宏之 早稲田大学社会科学総合学術院教授
森 博達 京都産業大学外国語学部中国語学科教授
山本真吾 白百合女子大学文学部国語国文学科教授 (五十音順)
表彰
正 賞 ・・・・・・・・・・・ 表彰状授与
副 賞 ・・・・・・・・・・・ 奨励金支給
- 漢検漢字文化研究奨励賞 最優秀賞 100万円
- 漢検漢字文化研究奨励賞 優 秀 賞 50万円
- 漢検漢字文化研究奨励賞 佳 作 30万円
※但し、該当なしの場合もある。
授賞式 平成26年3月下旬(詳細は後日案内)
応募について
- 応募条件
応募締切日現在で45歳未満である方。
共同執筆の場合は、すべての執筆者が45歳未満であること。
共同執筆の場合は、それぞれの執筆分担を論文中に明記すること。
※主として、学校等教育・研究機関の教員、研究者、大学院在籍者、教育委員会等の教育行政に携わっている方を想定しております。
- 応募方法(自由応募)
以下の3点を揃え、応募締切日までに郵便もしくは宅配でお送りください。- 『応募用紙』(当協会所定のもの/238KB)
※共同執筆の場合は、執筆代表者のみ当協会所定のものを提出してください。
他の執筆者は、共同執筆者用応募用紙(応募用紙の別シート)に記入し提出してください。 - 『応募論文の概要』(当協会所定のもの/45KB)
- 『応募論文』
応募論文は次のいずれかの形式でご提出ください。- ワープロ等で作成し、印刷出力したもの
- ワード・一太郎仕様のデータFDまたはCD-ROM
(図表、脚注、参考文献、引用文献はこの限りではありません)※応募書類一式は返却いたしませんので、あらかじめコピーをお取りの上、ご提出ください。
- 『応募用紙』(当協会所定のもの/238KB)
- 応募締切日
平成25年10月31日(木)(消印有効)
選考と結果通知
◆当協会選考委員会による選考を行います。
結果通知...平成25年12月下旬
◆当選作は当協会刊『漢字文化研究』に掲載するとともに、当協会ホームページで公表します。
◆選考結果は封書にて連絡いたします(共同執筆の場合は執筆代表者へ送付)。
応募先および問い合わせ先
〒600-8585 京都市下京区烏丸通松原下る五条烏丸町398
公益財団法人 日本漢字能力検定協会『漢検漢字文化研究奨励賞』係
TEL 0120-509-315(無料)(お問い合わせ時間 月~金 9:00~17:00 祝日・年末年始を除く)
FAX 075-352-8310
事業・活動情報
- 普及啓発・教育支援活動
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調査・研究活動
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