公益財団法人 日本漢字能力検定協会

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漢検漢字文化研究奨励賞

平成20年度(第3回)受賞者発表・講評・論文

平成20年度 漢検漢字文化研究奨励賞 受賞者

各賞受賞者(敬称略)論文タイトル
最優秀賞 該当無し
優秀賞 ジスク・マシュー・ヨセフ 東北大学大学院
文学研究国語学研究室
博士課程前期2年
和語に対する漢字の影響-「写」字と「うつす」の関係を一例に-
pdf論文PDF(24.2MB)
佳作 朱天愚 京都府立大学大学院 文学研究科 国文学中国文学専攻
博士後期課程2年
『日本書紀』における漢文助字「被」、「見」、「為」、「所」の用法について
pdf論文PDF(18.2MB)

講 評

京都大学大学院人間・環境学研究科教授
財団法人 日本漢字能力検定協会 評議員
阿辻哲次

平成20年度漢検研究奨励賞は厳正な審査の結果、受賞者が決定した。受賞された方々に対して心よりお祝いを申しあげたい。
この事業は、(財)日本漢字能力検定協会が主催する諸事業として、わが国の歴史を通じて文化に深くかかわる漢字と日本語(国語)に関するすぐれた研究または評論・調査などを顕彰し、研究者の研鑽をたたえ、成果を世に広めるための制度としてはじまったもので、今回は第3回目にあたる。
かつて、投稿論文が少なく締め切りを延長せざるをえなかったという苦い経験に鑑みて、今回はしかるべき時間と労力をかけて情宣活動を展開した。大学や高等研究機関などへのポスター掲示などにも力を入れ、それは確実に効果をあげてはいるが、ただ一昨年からはじまったばかりという歴史の浅さもあって、世間への滲透はまだ満足すべき状況には至っていないと感じられる。しかし今回は総計6名の応募があり、力作がそろっていたので、予定通りの締め切りで選考に入った。また今回の論考は学術的に一定の水準に達していると認定されるものがほとんどであったが、きわめて高度な達成と認められるものがなく、最優秀賞に該当するものはなかった。
本賞は45歳以下という若い世代の「漢字研究または漢字に関わる日本語研究」を表彰するもので、学習に熱心な高校生や、高度な研究に邁進する外国人留学生からすぐれた論考が寄せられたことは特筆すべき成果である。このことは、これからの日本における漢字と日本語の研究が国内外の幅広い分野から注目されていることを示し、ひいては協会による論文顕彰の事業が、斯界の研究の発展に大きく寄与することを予見させる。
投稿された論文の中には、ユニークな研究テーマに挑みつつも、日本語論文として読むにはいささか不親切な記述が多かったものや、膨大な辞書の中から大量の資料を渉猟しつつも、その分析にまだ未熟さを感じさせるがゆえに受賞の対象とはならなかったものもあるが、それらについては今後いっそうの研究の深化を期待し、将来のより大きな完成を期待することとした。
はじまってまだ間もないこの事業が、大学などの機関における研究者のみならず、これまで検定試験を通じて漢字を学習してきた方々のあいだに広く認知され、これまでの学習という姿勢から、さらに研究という方向へ、漢字とのつきあいが深まっていくきっかけとなることを、審査にあたったものの一人としてあらためて切望するしだいである。


優秀賞 ジスク・マシュー・ヨセフ
「和語に対する漢字の影響 -「写」字と「うつす」の関係を一例に-」

本論文は、日本語における動詞の意味変化に漢字の訓の影響していることを、「うつす」という具体的な語を取り上げて詳細に論じている。意味変化が真に漢字「写」の訓の影響にのみよるものか等になお検討の余地が残るものの、日本の上代から近世に至る多種多様な文献ひいては中国古典文献までも時間をかけて丹念に調べ上げ、一例一例の意味内容を文脈に即して正確に理解しようと努めた上で立論した労作である。今後、さらに類似の例が見出され、研究の発展が期待される点に本論文の意義を認め、高く評価するものである。


佳 作 朱天愚
「『日本書紀』における漢文助字「被」、「見」、「為」、「所」の用法について」

『日本書紀』の被動(受身)表現に関わる助字の用法と分布を調査し、「日本書紀区分論」の研究に新たな知見を加えた論文である。この論文で「被」「見」「為」については、α群(巻14~21・24~27)はβ群(巻1~13・22~23・28~29)よりも複雑な被動表現を用いていること、α群の中でも巻19と巻25は特に多様な表現を持ち、それぞれ特異な性質を持つこと、「所」については、用法によっては用例が各群に偏在することなどが明らかになった。著者は古漢語読解の能力に優れ、文献の電子検索にも秀でており、その調査結果には説得力がある。ただし、『日本書紀』の編修過程は複雑であり、従来から原史料の影響や編修の最終段階における後人の加筆も指摘されている。結論を急がず、さらに対象を広げて、「日本書紀区分論」の研究を深められることを願っている。

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