漢検漢字文化研究奨励賞
平成27年度(第10回)受賞者発表・講評・論文
平成27年度 漢検漢字文化研究奨励賞 受賞者
各賞 | 受賞者(敬称略) | 論文タイトル | 講評 | |
---|---|---|---|---|
最優秀賞 | 該当無し | |||
優秀賞 | フジモト アカリ 藤本 灯 |
国立国語研究所 特任助教 | 字音から見た三巻本『色葉字類抄』「仏法部」の性質 論文PDF(1.3MB) |
講評 |
佳作 | オオワダ リョウコ 大和田 凌子 |
茨城大学 人文学部 人文コミュニケーション学科 文芸・思想コース4年 |
『大漢和辞典』から考察する「譌字」 ―「譌字」と「誤字」の違いに着目して― 論文PDF(10.4MB) |
講評 |
佳作 | ホワニシャン アストギク Hovhannisyan Astghik |
一橋大学大学院言語社会研究科 博士後期課程3年 |
近代日本における眼科学者の国字研究 論文PDF(626KB) |
講評 |
佳作 | ライ エンコウ 頼 衍宏 |
銘伝大学応用日本語学科 専任助理教授 |
1960年代「和習研究」追考:コーパスに基づく再検討 論文PDF(590KB) |
講評 |
佳作 | リ エン 李 媛 |
北海道大学大学院文学研究科 博士後期課程2年 |
埋字と脱字 ―篆隷万象名義の掲出字数をめぐる問題― 論文PDF(734KB) |
講評 |
講 評
京都大学大学院人間・環境学研究科教授
公益財団法人 日本漢字能力検定協会 評議員
阿辻 哲次
平成27年度漢検漢字文化研究奨励賞は厳正な審査の結果、以下の通り受賞者が決定した。受賞された方々に対して心よりお祝いを申しあげる。
この事業は、(公財)日本漢字能力検定協会が主催する事業のひとつとして、わが国の歴史を通じて文化に深くかかわる漢字と日本語(国語)に関するすぐれた研究または評論・教育方法の開発などを顕彰し、研鑽をたたえ、その成果を世に広めるための制度としてはじまったもので、今回は第10回目にあたる。
かつてこの賞において、投稿論文が少なく、締め切りを延長して再募集せざるを得なかったという苦い経験もあるが、それはもうずいぶん過去のこととなった。うれしいことに回を追うごとに投稿論文数は増えつづけ、今回も高い研究水準を示す投稿が13本あった。
今回残念ながら受賞の対象とならなかった論考の中にも、興味深い研究はいくつかあった。しかしそれらは、問題の設定が日本における漢字と日本語の文化に関する研究という、本事業が目的とする領域からかなり逸脱し、たとえば中国語文法学のように非常に狭い範囲に特化した専門的な問題を扱った論考であったり、あるいは単に電算技術を駆使してしかるべき「表」を作ることだけを目的とし、できあがった表に分析を加えた考察がまったく示されていなかったりという理由などで、受賞にいたらなかった。近年の傾向として、漢字研究においても電算技術を駆使しての研究がきわめて多量にかつ情熱的に進展しているが、中には単にデータ処理だけを目的とし、導かれた結果を一覧表に示すだけの「研究」もあちらこちらに見受けられるが、研究であるためにはすべからく分析的考察と未来への展望が不可欠であることを投稿者は認識されたい。
年を追って本奨励賞の存在が広く認知されるようになり、大学院在籍中の若い研究者、あるいは現職の大学の若手教員などを中心として、投稿論文の質がめざましく向上してきたことは、関係者一同が深く喜びとするところである。さらに今後は学術組織に所属する研究者のみならず、さまざまな問題意識を持って平素から漢字と深くつきあっている一般の方々からの、フレッシュで独創的な研究の成果が一篇でも多く投稿されることを切に願うしだいである。
優秀賞 藤本 灯
「字音から見た三巻本『色葉字類抄』「仏法部」の性質 」
三巻本『色葉字類抄』「畳字部」中の「仏法部」語彙を対象に、「平安時代の呉音の体系に則った仮名音注・声点が付されているか」、調査したもの。全226語うち24語が呉音系と異なり、「仏法部語彙は呉音で示される」という通説が成り立たないこと証明した。漢音系仮名音注の混入理由は、仏典以外の典籍の中で読まれ定着したものを採録したことによると推測している。また声点の呉漢混淆という誤点から『色葉字類抄』の性質を窺い、仏教部の異質性の原因を追究し、この辞書の資料性も明らかにした。行論は間然するところなく、結論に説得力がある。
(森 博達)
佳作 大和田 凌子
「『大漢和辞典』から考察する「譌字」 ―「譌字」と「誤字」の違いに着目して― 」
『大漢和辞典』において「譌字(かじ)」と注記が与えられている全ての例について調査し検討を加えた労作である。身近な例から同辞典の譌字というものに着眼し、1万ページを遥かに超える全紙面に対して目視により該当字を探し出すという地道な作業方法を用いることで、初めてその全容を明らかにした。そのうえで、譌字という注記をもつ965字について分析を加えることにより、「誤字」とは重ならない性質も見出し、辞書における用語の付与における問題点も指摘した。
先行研究の踏まえや原テキストの確認、論の展開には今後の期待がかかる点もあるが、上記のように調査研究を詳細に推進したことにより、漢字字体史、漢字研究史、辞書史に関して学界に裨益し、後代に寄与する点が大きい。また、学部生の卒業論文でありながらの当力作は、今後、異体字や字体全般などについて研究を発展させていくことを大いに期待させるものでもあり、佳作に値するものと評価された。
(笹原 宏之)
佳作 Hovhannisyan Astghik
「近代日本における眼科学者の国字研究」
便利な照明器具が何種類も発明されている現代ではほとんど感じられなくなったが、かつて日没ととともにまわりが暗くなっていた時代では、夜の読書には多大の困難がともなった。向学心の旺盛な者は劣悪な照明事情にもかかわらず積極的に読書にいそしんだが、それは往々にして近視眼をわずらうという結果をともなった。
本論文は、明治時代の読書状況に起因する問題を眼科医たちがどのように認識し、そしてそこから日本における国字のありようを論じ続けたという点に焦点をあてた、まことにユニークな研究である。明治以降に漢字廃止論が唱えられた経緯とその展開についてはこれまで大量の研究があるが、眼科医たちが近視眼の激増に対応するために文字の改革を訴えてきた流れの研究には、非常に斬新な問題意識が感じられた。
(阿辻 哲次)
佳作 頼 衍宏
「1960年代「和習研究」追考:コーパスに基づく再検討 」
1960年代の日本の漢文学研究者による和習研究の誤りを指摘したもの。対象は、小島憲之・入矢義高・神田喜一郎・吉川幸次郎の和習判定。「及」「往塵」など計18語に及ぶ。デジタル環境を利用し、それらの用語が中国にあることを指摘した。4名の碩学の誤りは、『佩文韻府』などの工具書だけでなく、『日本国見在書目録』や『漱石山房蔵書目録』を通覧した後で和習語か否かを判定すべきであると提言する。コーパスに基づいた説得力のある論考であり、今後の研究はデジタル環境の活用が不可欠であることを示す。ただしかつての碩学の漢文読解力は貴重である。デジタル環境が整った現代だからこそ、研究を深めるためには基礎となる読解力を養わねばならない。
(森 博達)
佳作 李 媛
「埋字と脱字 ―篆隷万象名義の掲示字数をめぐる問題― 」
本論文は、我が国現存最古の漢字字書である高山寺本『篆隷万象名義』について、その掲出字数を正確に算定することを試みたものである。高山寺本は書写の過程で、掲出字の誤脱や誤写、重出、注文への組み込みなどを生じており、これをどのように扱うかによって掲出字数の集計結果が研究者によって区々で定まっていなかった。
この論文では、特に掲出字が注文に組み込まれた「埋字」と脱落した掲出字「脱字」を厳密に認定することによってこれまでの問題点を克服し、掲出字数の算定に成功している。そして、この調査の意義は、単に掲出字数の確定にとどまらず、本字書が成立した当初の姿を復元し、依拠した中国字書(『原本玉篇』)の収録字として認定できる範囲を限定する道筋も得られるという展望をもつものであって、丹念で精密な調査態度と発展性に富む点が高く評価される。
(山本 真吾)
平成27年度(第10回)実施概要
趣旨
漢字研究、漢字に関わる日本語研究、漢字教育など、広く漢字文化に関わる分野における優れた学術的研究・調査等に対して、その功績をたたえ社会全体に広く公表していく制度です。
将来一層発展することが有望視される、若い世代の清新な学究の優れた研究論文を選考し、更なる深化を奨励するため、懸賞論文形式の「漢検漢字文化研究奨励賞」を設定します。
対象
◆漢字研究または広く漢字に関わる日本語研究であること。
◆将来、一層の研究・調査の深化、発展が期待できる若い世代の研究(者)であること。
◆応募者本人が日本語で作成し、48,000字以下の分量であること。但し、図表、註、参考文献、引用文献は字数に含めない。
◆過去3年以内に公表した論文(※)も対象とする。但し、既に他で受賞した論文は対象外とする。
- ※平成24年4月1日以降に提出または刊行したもので、著書の場合は論文が元となっているものを対象とする。
選考委員
阿辻哲次 京都大学大学院人間・環境学研究科教授
笹原宏之 早稲田大学社会科学総合学術院教授
森 博達 京都産業大学外国語学部アジア言語学科教授
山本真吾 白百合女子大学文学部国語国文学科教授 (五十音順)
表彰
正 賞 ・・・・・・・・・・・ 表彰状
副 賞 ・・・・・・・・・・・ 奨励金
- 漢検漢字文化研究奨励賞 最優秀賞 100万円
- 漢検漢字文化研究奨励賞 優 秀 賞 50万円
- 漢検漢字文化研究奨励賞 佳 作 30万円
※但し、該当なしの場合もある。
授賞式 平成28年3月下旬予定(詳細は後日案内)
応募について
- 応募条件
応募締切日時点での満年齢が45歳未満であること。
共同執筆の場合は、応募締切日時点ですべての執筆者の満年齢が45歳未満であること。
共同執筆の場合は、それぞれの執筆分担を論文中に明記すること。 - 応募方法(自由応募)
以下の3点を揃え、応募締切日までに郵便もしくは宅配でお送りください。- 『応募用紙』(当協会所定のもの/241KB)
※共同執筆の場合は、執筆代表者のみ当協会所定のものを提出してください。
他の執筆者は、共同執筆者用応募用紙に記入し提出してください。 - 『応募論文の概要』(当協会所定のもの/47KB)
- 『応募論文』
応募論文は次のいずれかの形式でご提出ください。- ワープロ等で作成し、印刷出力したもの
- ワード・一太郎仕様のデータFDまたはCD-ROM
(図表、脚注、参考文献、引用文献はこの限りではありません)※応募書類一式は返却いたしませんので、あらかじめコピーをお取りの上、ご提出ください。
- 『応募用紙』(当協会所定のもの/241KB)
- 応募締切日
平成27年10月30日(金)(消印有効)
選考と結果通知
◆「漢検漢字文化研究奨励賞」選考委員会による選考を行います。
結果通知…平成27年12月下旬
◆受賞論文は当協会刊『漢字文化研究』に掲載するほか、当協会のホームページや機関誌、書籍等、当協会が適当と認めた媒体で発表します。
◆選考結果は封書にて連絡いたします(共同執筆の場合は執筆代表者へ送付)。
応募先および問い合わせ先
〒600-8585 京都市下京区烏丸通松原下る五条烏丸町398
公益財団法人 日本漢字能力検定協会「漢検漢字文化研究奨励賞」係
TEL:0120-509-315 月~金 9:00~17:00(祝日・年末年始を除く)
●個人情報に関する注意事項●
- 記入して頂いた個人情報は、「漢検漢字文化研究奨励賞」に関わる業務にのみ使用します。
(ただし、本件に関わる業務に際し、業務提携会社に作業を委託する場合があります。) - 個人情報の記入は任意ですが、必須項目に記入がない場合は申請の受理ができないこともございますので、
ご注意ください。 -
個人情報に関する開示、訂正等のお問い合わせは、下記の窓口へお願いします。
公益財団法人 日本漢字能力検定協会 個人情報保護責任者 事務局長
個人情報相談窓口 https://www.kanken.or.jp/privacy/
事業・活動情報
- 普及啓発・教育支援活動
-
調査・研究活動
-
漢検漢字文化研究奨励賞
- 2024年度(第19回) 実施概要
- 2023年度(第18回)受賞者発表・講評・論文
- 2022年度(第17回)受賞者発表・講評・論文
- 2021年度(第16回)受賞者発表・講評・論文
- 2020年度(第15回)受賞者発表・講評・論文
- 2019年度(第14回)受賞者発表・講評・論文
- 平成30年度(第13回)受賞者発表・講評・論文
- 平成29年度(第12回)受賞者発表・講評・論文
- 平成28年度(第11回)受賞者発表・講評・論文
- 平成27年度(第10回)受賞者発表・講評・論文
- 平成26年度(第9回)受賞者発表・講評・論文
- 平成25年度(第8回)受賞者発表・講評・論文
- 平成24年度(第7回)受賞者発表・講評・論文
- 平成23年度(第6回)受賞者発表・講評・論文
- 平成22年度(第5回)受賞者発表・講評・論文
- 平成21年度(第4回)受賞者発表・講評・論文
- 平成20年度(第3回)受賞者発表・講評・論文
- 平成19年度(第2回)受賞者発表・講評・論文
- 平成18年度(第1回)受賞者発表・講評・論文
- 漢字・日本語教育研究助成制度
- 京都大学×漢検 研究プロジェクト
-
漢検漢字文化研究奨励賞
- 日本語能力育成活動