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松居 晃彰
- 研究開発部 調査研究課
2015年入職 理学部
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田畑 裕哉
- 研究開発部 調査研究課 課長
2006年入職 教育学部
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幸田 直樹
- 研究開発部 調査研究課
「京都大学×漢検 研究プロジェクト」
プロジェクトリーダー(AI分野)
2008年入職 工学部
理系出身者の活躍が目立つ近年の漢検。
理系出身者たちがどんな部署で、どんな熱量で、どんな働きをしているのか、
研究開発部調査研究課の3名の先輩に聞きました。
理系出身者たちがどんな部署で、どんな熱量で、どんな働きをしているのか、
研究開発部調査研究課の3名の先輩に聞きました。
- 入職のきっかけ
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田畑
- ふたりは理学部と工学部の出身ですけど、そもそも就職先として漢検を選んだ理由は?
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松居
- もともと教育に興味があって、学部を卒業するときに、研究の道に進むか、教育の道に進むかという選択肢から、教育の方を選んだんです。教育のなかでも漢検を選んだのは、世の中に広く影響を与えられるような教育に携わりたいと思ったからです。
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幸田
- 私は大学で数理生態学を専攻していました。数理生態学というのは、生物の生態を数学的に表してコンピューターでシミュレーションするというような学問で、私はシミュレーションの部分ではなく、生物的な要素に惹かれてそれを学んでいたんです。でも、いざ就職となったとき、学科推薦で入れるのはやはりロボティクス系が中心なんですよ。大きい会社も多くてチャンスもあったんですが、そこでロボティクスをやっている自分がどうしても想像できなかった。そんなとき、大学時代に取った漢検のことを思い出して、ちょっと調べてみたら少ない人数で重要なことをやっていて、なおかつ検定だけではなく興味深いこともやっている。あと、自分が漢検に取り組んだとき、単純に面白かったんですよね。その記憶もあって、じゃあここに入ってみようと。
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田畑
- 周囲の反応はどうでしたか?理系の研究室から漢検っていう…。
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幸田
- そりゃ、ものすごく驚かれましたよ。教授にも「そんなの初めてだよ」って(笑)
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- 現在の仕事について
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松居
- 私は、新商品開発やテスト理論による統計分析などに取り組んでいます。新商品開発は、その名の通り、協会がまだ持っていない商品で世の中に役に立ちそうなものを調査して開発につなげること。これまでには、「いちまると旅しよう! しりもじ漢検」という漢字学習アプリやeラーニングの開発に携わりました。テスト理論による統計分析というのは、検定に合格したり、高い点数を取ったりすれば漢字の能力があるということを理論的に示すための統計分析のこと。最近は、そうした検定の妥当性というか客観的な指標を求められることが増えてきているように思います。
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田畑
- たとえば、「10cmを測りなさい」って言われたら、ふつうは疑いなく定規を使って10cmを測る。でも、それが成立するのはその定規の目盛りの間隔が本当に正しいから正確に10cmを測れるわけです。いま松居さんにお願いしているのは、検定の“定規”の目盛りが正しいかどうかを確かめる仕事と言えますね。
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幸田
- でも、IRT(項目反応理論/能力を数値化するテスト理論)ってまだ情報少ないですよね。具体的な式は出てきても、それをどう使うかなんて調べてもほとんど出てこないでしょう?
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松居
- そうですね。ですから、ときには論文を探して情報を集めますね。そしてこの協会、この検定だったらどういうふうに適用させればいいかを考えながらやっていかなきゃいけないところが、面白くもあり、難しいところでもありますね。
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幸田
- 大学の修士で2年くらいかけてやるようなことを一人で調べてやってますよね。取り組みのパワーが桁違い!
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松居
- 決まったやり方があって、こういうデータが出ればいいというだけでは私はダメだと思っていて。仕事って、内容まで理解できて洗練されると思うんです。やり方だけじゃなく、本質まで見極めたいという研究者の心が私の中にもあったのかもしれないですね(笑)
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幸田
- 私は、大学と連携してAIによる文字認識技術の開発に携わっています。研究の発端となる考え方や素案のプログラムを書いて、それを大学にプラッシュアップしてもらい、互いに議論をしながら開発を進めていくというようなイメージですかね。
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松居
- 「今年の漢字」の投票を集計するAIも作ってますよね。
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幸田
- そう。これは大学のプロジェクトとは直接は関係ないんですが、「今年の漢字」って毎年、紙だけでも10万枚以上の応募があるんです。それを、人間が全部目で見て読むのは大変なので、文字を分別するAIを開発中なんです。
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田畑
- あ、そもそも「今年の漢字」はみなさんからの投票を集計して選ばれるということが十分に知られてないかもしれないですね。この機会に知ってもらえれば(笑)
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- 理系の素養が生かせる環境
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田畑
- 幸田さんは大学で学んだことが、結果的には生かせているっていうことになりますね。
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幸田
- 別に生かすつもりはなかったんですが(笑)、何やかんやで生かしてますね。画像処理の授業で学んだことを思い出したりすることもあるし、学生時代にはプログラムも書いていましたしね、成績は酷いもんでしたけど。プログラムがバリバリ書ける人なら、即戦力ですし、そうでなくても企画や設計などから任せてもらえるし、相当面白いと思いますよ。
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松居
- プログラミング系でなくても、理系の論理的な思考力はいろいろな場面で役立ちます。言葉は違っても、数学や理科の学びで培った論理的思考をうまく仕事バージョンに変換できればハマることも多かったような気がしますね。
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田畑
- ふたりとも、疑問や課題を頭の中で整理して解決策を導き出す、その流れがきちんとできているような気がします。
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幸田
- 数学みたいに、こうやったらこうなるというのがスッキリして気持ちいいのかもしれない。
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松居
- そうですね、それはありますね。
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田畑
- 課題を解決して新しいサービスを生み出すとか、そういう何かを転換するタイミングでは、理系の人たちの考え方は特に光ると思いますよ。
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幸田
- 私が以前特許を取った、採点支援装置(漢字を分解して必要な情報を整理し、漢字の採点を最も速く正確に行うためのツール)も、漢字に対するアプローチが理系的だったからできたものかもしれないですね。
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田畑
- それまでは電話帳みたいに分厚い資料の束を、みんなでひたすらめくって確認しながら採点してたもんね。
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幸田
- 私もそれを1~2年やってみて、こりゃムリだなと思って作ったんです(笑)。
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松居
- そういったものを協会内で作れると、現場に即した使いやすいものが出来ますね。外部にシステムを発注するとしても、システム開発を理解できる人がいれば、外部の人とも内部の人とも意思疎通がとりやすくて、それが仕事の効率化につながるんです。
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田畑
- システムの話って、知らない人にとっては外国語のようなもので、実際に苦手意識のある職員もいる。これまでも外部の開発会社といろいろなシステムを作ってきたけれど、どうしても受け身になりがち。システムでは実現できないとか、このような運用なのでこのままシステム化してほしいとか、相容れない部分は必ず出てくる。そこを解決しようとしないまま諦めたり、よくわからないからと言って外部の開発者に任せっぱなしになったりする。その結果、便利かどうか疑わしいものが出来上がってしまう。だから、協会側にそうしたシステム開発やプログラミングにアレルギーがなく、そういう課題整理に積極的に立ち向かえる人間が増えることは、今後のあらゆる開発で非常に重要だと思う。
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松居
- これからはビッグデータの活用も欠かせない時代ですからね。
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田畑
- そう。長年検定をやってきて、データは蓄積されている。研究者視点を持っている人には、これらのデータはきっと宝の山だと思うんですよ。例えば受検者の皆さんが答案用紙にどう書かれたか、データとして残っている。それを何らかの形で社会に還元し、役立たせることを考えなきゃいけない。そうした意識を持ってデータをうまく活用できる人なら、活躍の場はどんどん生み出せるはず。今はまだ、ようやく答案画像からの文字認識や誤答分析の方向に踏み出せたという状態ですからね。
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- 漢検が求める人材像
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幸田
- 自分のやりたいことが見つけられる人。
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松居
- 理系の素養だけでなく、他に何かひとつ個性となる部分を持っている人、ですかね。
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田畑
- 理系出身者だからといって、みんながみんな、このふたりのようになれるとは思わないんですよ。このふたりには、理系の素養とはまた別の+αがあるから。たとえば、幸田さんなら理系の素養+異常なまでの好奇心、物事へのハマり方。松居さんなら理系の素養+異常なまでの大局観、学ぶことへの熱心さ。そういう尖った人がいないと現状打破はできないものだと思います。
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幸田
- そういう人間をまとめる管理職は大変ですね(笑)
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田畑
- うん、本当に大変(笑)。ただ、しっかりまとめて束ねようとは思っていなくて、それぞれ尖った方向性と協会が進む方向性や社会が求める方向性を合わせていくという感覚なので、これからも“しっかり”尖ってね。
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私の未来・漢検の未来
松居(写真:左) 世の中には、漢字や日本語の勉強を苦手だと感じる人もいると思いますが、日本で暮らしていく以上、絶対に避けられないもの。ですから、それを勉強とは思わない形で自然に身につけられるような何かを生み出していけたらと思っています。
幸田(写真:右奥) 手書き漢字を漢検の定めた基準に沿って公正公平に採点する。これをよりよい状態で全うするため、常に環境の変化に対応し、新しい技術を取り入れながら進化していきたいと思っています。当面の目標はAIによる文字認識技術の確立ですが、それだけに留まらず、そこから得られた技術を協会全体でうまく利用していけたらいいですね。
田畑(写真:右) AIによる文字認識技術や蓄積されているデータ分析を通じて、たとえば、よくある間違いや記憶すべき漢字の特徴などを導き出せば、これまでとは違う新しい学習方法が生み出せるはず。漢字や日本語の学習スタイルの革命を起こし、「漢字・日本語の学び方は漢検に聞け!」と言われるようにしていきたいですね。