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「相手の身になって考える」がテーマの『にっぽんのカイシャ』は、初級後半から上級者まで様々な使い方ができますよ。
小山暁子先生は、主にビジネスパーソンを対象に、出向レッスンを行って30年のベテラン日本語教師。経営者、専門職へのプライベートレッスンから新入社員研修などグループレッスンまで多岐に渡り、彼らの目的や能力に合わせてコーチングなどの手法も取り入れた授業展開をされています。また、日本語教師のための勉強会「サタラボ」を主宰され、より実践的な指導方法を学ぶため、多くの教師が参加されているそうです。今日は、『にっぽんのカイシャ』を指導に役立てるためのアドバイスをお聞きしました。
Q.『にっぽんのカイシャ』はどういう教材でしょうか?
全編を通して「相手の身になって考える」がテーマの本です。初級後半から上級まで、また、新入社員、中堅社員、経営者と学習者に応じて様々な使い方ができると思います。
Q. これから『にっぽんのカイシャ』の活用をお考えの先生にアドバイスをお願いします。
◇「間違い」「正しい」という言葉では説明しない
ビジネス日本語の授業の中で一番大切なことは、学習者が『なぜこうするのか?』を理解することだと考えています。そこが理解できないと、知識として身に着きません。授業で、「日本のビジネス場面では、なぜこうするのか」について考え、ディスカッションをすると理解を深めることができるでしょう。その際、場面の解説で「間違い」「正しい」と説明すると学習者は「知識」として覚えようとしてしまいますので、私は「一般的なビジネス場面です(が、あなたの職種もそうだとは限らない)」とお話するようにしています。
◇フレーズを覚えたら応用する
実践的な日本語の会話力をつけるためには、マンガの右ページ、「使ってみよう!」にあるフレーズを覚えることはとても大切です。その際、「これが正しい」という説明ではなく、「基本的な表現」だと説明するようにしています。レベルに合わせて「会話を作ろう!」で練習した後に、学習者の日常を想定した応用フレーズを練習します。この応用フレーズは、始めから与えるのではなく、まずは学習者本人に考えてもらうと定着しやすいようです。一回の授業で取り上げるテーマに対して、それに関連した応用フレーズや場面例を、どこまで教師が提供できるかは、授業の内容を拡げるためにとても重要だと思います。
◇初級の生徒に使う時は工夫が必要
マンガにはフリガナが振られていないので、プライベートレッスンなら、まず教師が音読し、台詞の読み方を確認します。もし、中上級者と初級者の混合クラスであれば、中上級者に演じてもらうようにしています。また、新出フレーズは、そのまま指導すると初級者にとって難しい場合があるので、その学習者が使えるような簡単な表現にレベルダウンし、一般的な表現に落とし込んで指導します。学習者のレベルに合わせ、かつ、不自然だったり子どもっぽかったりしない表現を事前に準備できるかが、先生の腕の見せどころだと思います。
Q.『にっぽんのカイシャ』は、どんな人を対象に活用できますか?
『にっぽんのカイシャ』は、ビジネス日本語の教材としてだけでなく、テーマや目的を変えれば、幅広く活用できると思います。私の考える対象者は、以下の通りです。
①外国人新入社員
新卒社員だけでなく、海外から日本への転勤や転職で初めて日本で働く人を対象に、日本の企業文化や商習慣を学ぶ教材として活用できると思います。
②日本人新入社員
外国人新入社員が日本企業の商習慣や立ち居振る舞い方に関して疑問に思った時、まず質問や相談をするのは、同僚の日本人新入社員の場合が多いです。
また、最近は、帰国子女など国籍は日本でも、自分の中の文化が外国の方もいらっしゃるので、そのような背景を持つ日本人向け研修にも活用できると思います。
③外国人社員を受け入れる部署の日本人社員
日本人として日本で生活していると、なかなか外国人の目線に立つことが難しい場合があります。外国人社員が、どこまで知らないかが分からないこともあるため、受け入れる部署の教育係やメンターの役割を担う社員は、事前学習のために活用できると思います。また、問題が起こったときにそれが外国人本人の人格に起因するものではなく所属していた社会での常識から生じるものだと気づくことも多々あり、これは良好な人間関係構築のため非常に有効です。
④自分のキャリアを生かし、ビジネス日本語教育に携わりたいと考えている方
企業での勤務経験を生かし、これからビジネス日本語教師として活躍しようと考えている方に、一度読んでいただきたいです。ビジネス日本語を教える際、自分が元々勤務していた企業での経験を当てはめて考えてしまうことがありますが、会社毎に社内のルールや習慣が異なる場合も多いので、自分の経験を振り返るきっかけとしても参考になると思います。
⑤企業経験のない日本語教師、初めてビジネスパーソンに教える日本語教師
社会人デビューの仕事が日本語教師、また学校等での教師経験があっても企業経験がなく、初めてビジネスパーソンに教える時に不安を感じる方は少なくありません。私自身、企業経験は短かったので、初めて企業へ教えに行った時の不安は30年たった今でも昨日のように覚えています。『にっぽんのカイシャ』は、そのような方々からご相談があったときに私がご紹介する参考図書の1冊です。
※掲載内容(所属団体、役職名等)は取材時のものです。