団体受検 取組事例(小・中・高 等)
小学校
学校・家庭・地域が思いをひとつに、「共に輝く豊かな人」の育成を目指して/小学校/静岡
中部 / 静岡
[公立] 裾野市立南小学校(小南クラブ 漢字検定チャレンジクラブ)
校長 湯山 小百合 様
スクールコーディネーター(※1) 三ツ石 純子 様
■学校・家庭・地域がビジョンを共有した学校運営の推進
(湯山校長・三ツ石スクールコーディネーター)本校のグランドデザインには、学校教育目標として「共に輝く豊かな人」を掲げています。開校から2020年度まで、「共に輝く豊かな子」にしていましたが、子どもたちだけでなく、子どもたちの教育に関わる教員、保護者、地域住民にも「共に輝く豊かな人」を目指してほしいということから、2021年度より、現在の学校教育目標へ変更しました。子どもたちの見本となる立場の大人が学校教育目標の実現を目指していくことによって、子どもたちを「共に輝く豊かな人」へ導くことができると考えています。 本校は、地域の強い願いによって、2006年に開校された市内で一番新しい小学校です。開校当初から、学校と地域が同じビジョン・目標を共有し、協働しながら子どもたちの教育を考える「夢と輝きの教育推進会」が組織されています。地域の各種団体の代表者(※2)総勢50~60名が年4回集まり、学校と地域で考えたグランドデザインを実現していくために、誰が何をやるべきかを熟議しています。すでにこのような組織と機能があることから、2022年度に予定しているコミュニティ・スクールへの移行もスムーズにできると考えています。 また、本会は地域学校協働本部の役割も担っており、学校と地域が対等な関係で協議をしながら、子どもたちに必要な支援活動を行っています。 その支援活動の一つに、希望する子どもたちが放課後や土曜日、日曜日に集まり、さまざまなクラブ活動を行う「小南クラブ」があります。オセロ教室、走り方教室(ランチャレ)、卓球部などがあり、指導や監督は、地域のボランティアが行っています。
■地域の生涯学習を推進するスタートアップとして、「漢字検定チャレンジクラブ」を立ち上げ
(三ツ石スクールコーディネーター)年4回ある「夢と輝きの教育推進会」のうち1回は、子どもたちが参加する形を取っています。大人たちが考えたことの押し付けにならないように、子どもたち自らがどのようなことをやりたいのかをヒアリングし、学校や地域の活動に取り入れています。 とあるヒアリングの中で、地域ともっと関わりたいと考えている子どもたちが想像以上に多いことがわかりました。同時に、地域の方々にもヒアリングを行った結果、子どもたちと一緒に活動をしたいという意向を確認することができました。それを受け、学校の先生方からの意見を伺う機会も設けるなど、熟議を重ねた結果、地域の生涯学習につながるクラブ活動として、漢字検定へのチャレンジを支援する「漢字検定チャレンジクラブ」を立ち上げることにしました。 地域の生涯学習のスタートアップとして、漢字検定へのチャレンジをテーマとした理由は、以下の2点です。
①漢字を学習することは、子どもからシニアまでのすべての世代にとって、ハードルが低く、 取り組みやすいこと
②各自が自身の能力に合わせて選択した級に取り組めるため、個別最適な目標を持ち、学習で きること
特に、②に関しては、「子どもたち自らが課題を設定し、その課題をクリアするためにどのように取り組んでいけばよいのかを考え、学習する」といった形が成立するので、主体性を育むうえで、必要なことだと考えています。
■漢字検定に向けた学習会で生まれた素敵な光景
(三ツ石スクールコーディネーター)小学校の会議室や図書室などを会場に、漢字検定に向けた学習会を開催しています。運営は、スクールコーディネーターと地域ボランティアで行っています。学習会には、子どもたちだけでなく、地域のシニアの方々も参加しています。 そのような学習会の中で生まれた素敵な光景を3つご紹介いたします。まず1つ目です。学習会を開始した当初、子どもたちからは、「おじいちゃん、おばあちゃんになっても、勉強するんだ」という驚きの声が上がりました。それに対して、シニアの方が「何歳になっても勉強はするものだよ」、「みんなで学ぶことって楽しいことなんだよ」と返答している様子が見られました。シニアの方々が学ぶ姿は、子どもたちに生涯学び続けることの大切さを伝えているように見えました。 次に、2つ目です。シニアの方が「この漢字のここの部分、トメるのか、ハネるのか、わからないなぁ」と言うと、隣で勉強している子どもが辞書を引き始めました。辞書を引くことに手間取っているのを見て、シニアの方が辞書の引き方を教えていました。子どもとシニアが学び合う姿が生まれた瞬間でした。 そして、3つ目です。学習会がある日は、会議室の清掃担当に割り当てられている4年生の子どもたちが会場づくりをしてくれています。ある日、漢チャレに参加している男の子と漢チャレに参加していない女の子が机といすを並べていました。男の子が机同士の間隔を広げて、並べているのを見た女の子が「それでは、すべての机といすが入りきらない」と言いました。すると、男の子が「杖を突いたおじいちゃん、おばあちゃんが来るから、間隔を空けないとうまく通れないんだよ」と返しました。それに対して、女の子が「たしかにそうだね、そうしよう」と、男の子の考えを受け入れる姿勢を示しました。子どもたちが対話しながら、問題を解決していく姿が見られたのです。地域のシニアの方々と一緒に、漢字検定に向けた学習会を行うことで、まさか子どもたちの他者を思いやる気持ちや多様性への配慮の姿勢を育むことができるとは思ってもみませんでした。
■地域主体で漢字検定へのチャレンジ機会を設定
(三ツ石スクールコーディネーター)本校では、準会場として年2回、漢字検定の受検機会を設けております。学習会に参加していた子どもやシニアだけでなく、保護者や卒業生(中学生・高校生・大学生)なども受検しています。 家庭の経済的事情を理由に、子どもたちの自ら学び、チャレンジする機会を摘んでしまわぬよう、学習会の教材費は無料にしています。一方で、保護者に子どもの教育へ関心を持っていただくためにも、受益者負担も大切だと考えています。漢字検定の受検料に関しては、各家庭にご負担いただき、検定を実施しています。 子どもたちへの受検募集の案内は、学校からプリントを配付いただき、地域の方々への案内は、回覧板や口コミで行っています。申込のとりまとめや受検料集金、当日の試験監督などは、スクールコーディネーターと地域ボランティアが担当しています。
■漢字検定に取り組んだ効果
(湯山校長・三ツ石スクールコーディネーター)漢字検定へのチャレンジは、子どもたちの漢字力・語彙力を高めることはもちろんのこと、主体性を高め、成長を実感する機会にもなっています。実際に子どもたちや保護者、先生方から漢字検定に取り組んだ効果について、たくさんの話を聞いています。 ある5年生の子どもは、お母さんに奨められ、漢字検定を受検しました。もともと漢字に対する苦手意識を持っていたようですが、漢字検定の合格を目指して1年間、学習に取り組んでいくうちに、漢字がだんだん好きになり、自ら学習に取り組むようになったとのことでした。検定にも無事合格し、自分自身の成長を実感する機会となったようです。 担任の先生方からも、漢字検定の合格を目標に、一生懸命学習に取り組んでいる子どもが増えていると聞いています。
■持続可能な地域の生涯学習と交流の場づくりを目指して
(三ツ石スクールコーディネーター)何事も活動を持続させていくためには、人材の確保だけでなく、活動の充実を図るための運営資金が必要です。2019年度から2021年度の3年間は、裾野市のパートナーシップ事業補助金制度(※3)を活用し、活動運営をしていますが、2022年度からは自立的な活動運営が求められます。そのため、地域の各種団体へ協力を要請し、運営資金の調達を行っていく予定です。加えて、漢検協会の「漢字まなび活動助成制度」(※4)や検定料控除制度(※5)も活用し、持続可能な地域の生涯学習と交流の場づくりを実現していきたいと考えています。
※1 地域学校協働本部事業において、学校と地域の人々との連絡調整を行う人。※2 子ども会や育成会の会長、シニアクラブの代表、自治会長、消防団長、学校評議員、民生 委員、PTA会長・副会長、前PTA会長・副会長など。
※3 市民と市のパートナーシップにより魅力あるまちづくりを推進するため、地域の活性化に 向けた市民の自主的な活動に対し予算の範囲内で補助金を交付する制度。 (URL:http://www.city.susono.shizuoka.jp/kurashi/9/8/2642.html)
※4 日本全国における漢字学習の振興を目指し、漢検協会以外の団体が行う地域の漢字学習の 振興に寄与する活動に対して、活動費用の一部を助成する制度。 (URL:https://www.kanken.or.jp/project/edification/assist.html)
※5 検定の実施運営における、団体の経費負担を補助する制度。
※掲載内容(所属団体、役職名等)は取材時のものです。