団体受検 取組事例(小・中・高 等)
中学校
幅広い見識と生きる教養を育むために/中学校/奈良
近畿 / 奈良
[私立] 西大和学園中学校・高等学校
学校長 今村 浩章 先生
1.文系・理系にとらわれない必要な力を身につける
本校では「次代を担う高い理想と豊かな人間性を持ったリーダーの育成」を目指しています。
このリーダーの定義は、人間としての基礎力にもつながりますが、人間として、幅広い見識を持ち、正しく判断して、生きる教養をたゆまなく身につけるということです。平たく言いますとその基本となる力は、自分で課題を見つけ、自分で考え、自分で解決する能力であり、まさに生きる力そのものです。
本校の卒業生の多くは理系分野に進んでいます。私たちの学校は医学部をはじめ理系に特化した教育を推進しているように思われますが、そうではなく、今の時代がその力を必要としているからです。たしかに理科の研究者になるためのカリキュラムを用意していますが、それは人々の生活に恩恵をもたらす身近なものについて理解する必要があるからです。例えば、iPod*はなぜ音楽が再生できるのか、携帯電話はなぜ通話できるのかなど、利用者として漫然と恩恵を受けるだけでなく、仕組みを理解することが大切です。
これからの社会は理系の要素が強くなっていくと感じています。文系であっても理科あるいは技術の知識が必須です。あまり理系や文系と区別するのもおかしいですが、理系的な要素を学習していかないと論理的な思考力が身につきません。そういうことを含めての理系であって、本来は国民全体に必要なものなのです。ブレーズ・パスカルが「パンセ」で語っているように、柔軟で直感的な精神と厳密で論理的な科学の精神両方が必要だと思います。
しかし、生徒たちの多くが勘違いをしています。「私は文系だから理系はもういいんです」などと言う生徒もいますが、嘆かわしい大きな間違いです。大学入試の科目だけで、文系人間、理系人間と勝手にわけて、学ぶべき知識を制限するような間違いを一生続けようとしています。生徒たちには、両方できることが大切だと訴えています。
繰り返しますが、理系教育だけを行えばよいというものではありません。文系や理系などの枠にとらわれない幅広い知識をもち、モラルや人間性を兼ね備えた上で、日本についての将来を考えられる人間を育てていきたいと考えています。
*iPodはアップルコンピュータの登録商標です。
2.基礎基本から生きる力が生まれる
よく誤解されがちなのは、まるで、「読み・書き・そろばん」という基礎が身についていなくても、いきなり何もないところから発想したり、判断したりすることができると思われることです。入学したからといって、いきなり創造的なことができるわけではありません。大人はそれが不可能だと理解しているのでしょうが、生徒が誤解しています。
コツコツと地道に勉強して身につく知識、人にきちんと挨拶できること、コミュニケーションをとれること、こういう基礎を無くして何事かを一足飛びにできたりはしません。最近は基礎的なことや過程を忘れ、とかく結果だけを見てしまいがちです。例えば、ノーベル賞をとった人のいいところだけ見て、自分もすぐそこに行こうとするような短絡的な考え方をしてしまうのです。
基礎というのはコツコツと、ある程度は苦しい思いをしないと身につきません。オリンピックに出る選手や大リーグの選手でさえそうです。陰ですごい練習をしているはずです。結果ばかりを追うのではなく、人生とは基礎基本がきっちりしているからこそ最後は花開く、ということを生徒には伝え続けています。中学校・高校で習う数学や理科、社会、家庭、芸術などからの知識が全て詰まって、初めて生きる力や創造力が生まれてくるはずです。
3.目標を明確にし、魅力を伝える
地道な努力や絶えず継続する積み重ねの大切さを理解させながら、高いレベルでの知識や基礎的な能力を身につけるためには、目標地点を明確にし、子ども自身が魅力を感じながらそこに向かっていくことが重要だと考えています。しかし、今は、その目標地点が見えにくくなっていると感じています。それが、基礎的な部分を忘れて結果だけをすぐ見てしまうような、短絡的な考えにもつながっているのだと思います。
例えば、最近は工学部の人気が落ちていると聞きます。それは、工学部が何をしているのか、工学部で学ぶことの先にどのようなものがあるのかがイメージしにくいのだと思います。それに比べて例えば医学部や法学部などは、「医者や法律家になり、人の役に立てる」というイメージがしやすいのだと思います。
そこで本校では、学ぶことの先を生徒たちがイメージしやすいように、様々な教育を展開しています。その1つにSSH(スーパーサイエンスハイスクール)があります。SSH(スーパーサイエンスハイスクール)とは、理科や数学、科学技術などの教育を重点的に行う授業です。この特別カリキュラムでは、最先端の研究や身近な科学技術について学びます。最近多くなったのが卒業生の研究者によるSSH講義で、例えば、プラズマテレビの仕組みやエコカーの話などがありました。これらの授業は全て卒業生が講義を行っています。身近な先輩からの話ですので、生徒も興味を持って講義を受けています。
4.興味・関心を持たせる
何を学ぶにしても、何をするにしても興味を持つことが重要です。そのため、教科書や本など、紙面だけではなく、実際に見て、視覚的に伝えることも心がけています。
以前、社会の特別見学会で唐招提寺の解体を目の当たりにして、生徒たちは感動して帰ってきました。緻密に計算されて、綺麗に組み立てられていた材木などは、一度外したら元通りには戻りません。現代の技術でさえ戻らないのです。このような現場を実際に見ることで、より興味を持つのです。
しかし、視覚的に興味を持たせにくい教科もあります。例えば、数学や国語などです。「必要だからやらなくてはいけない」と頭ごなしに言うのではなく、「なぜ学ぶ必要があるのか」を伝えるようにしています。例えば、数学は論理的なものの基本であり、帰納と演繹の関係、つまり、「事例をあげて公式を一般化する → 一般化した公式から事例を導く」のに役立つということを伝えなければいけません。
また、国語は全ての基礎であり、コミュニケーションのために必要なものです。言葉を使えなければ、いくら知識があってもそれを生かすことができません。日本語の場合、漢字や熟語を知っていれば、長々と多くの言葉を使わずとも端的に説明したり、自分の考えを表すことができます。"国際化"という言葉を受けて、英語で表現しようとする人もいますが、やはり日本人ですから、日本語のほうが伝わりやすい。相手を理解するためにも、自分の考えを表すためにも必要な力だ、と教えています。
昔は友人と遊んだりいたずらをする中で人間関係やコミュニケーション能力などを培うことができました。しかし、今の子どもたちの多くは、中学受験のために小学校の低学年から塾に行っており、中学に入ってあらためてコミュニケーション能力を要求されるようです。本校で設けているさまざまな行事や体験学習は、それらの能力を身につけるために有効ですし、興味を喚起することもできます。
例えば、語学研修として、中学ではアメリカ合衆国、高校では中国とイデオロギーの違う二大国家に行きます。特に中国では目覚しい発展を目の当たりにして色々考えるようです。私どもとしては、この二大国家を見ながら日本の将来を展望させるというのが大きな目標です。
アメリカに行ってこんなことを言った生徒がいました。
「国際人というのは、何ヶ国語も話せることだと思っていましたが、自分の考えは間違っていました。アメリカの生徒は自分の周りにある建築物の由来や背景をしっかり説明できます。それに比べ、自分たちは近くにある法隆寺ですら、どういう仏像や建築物があり、どのような歴史的背景をもつのか等の詳細なことを知らないし、説明もできません。本当の国際人とは、まずは自分の国を理解すること。そして、そこから他国をも理解できるのだと思います。」
海外に行って、自分で気づいたようです。
宿泊行事は他にもありますが、特に農家に宿泊するファームステイという行事が生徒に人気です。軽い農作業を手伝うことによって、日本の食文化と農家の現状について考え直すようです。また同時に、収穫の喜びを感じたり、農家の大家族の温かさに触れます。生きるということを実体験で学ぶことができます。人と人とが触れ合う中で人間の基礎を学び、絆が深まっていきます。
5.自主性と全力で取り組む姿勢
これまで述べてきたように、本校では体験学習や行事が多いのですが、学習がおろそかになることはありません。実際に見て、聞いて、体験することで生徒たちは自ら「なぜ?」という疑問をもったり、必要性を理解するようになり、自然と自ら学ぶようになります。例えば、本校では「漢検」を全員が受検していますが、生徒は自主的に学習しています。それは、生徒たちにとって「漢検」は、自分のためになるということをしっかりと理解しており、中学生として必要な資格だという意識を持っているからです。本質を理解し、あるものに対して力を抜くことなく全力で取り組む。本校には、伝統的なこのような雰囲気があります。これはリーダーとして、社会人として必要な力といえるでしょう。
※掲載内容(所属団体、役職名等)は取材時のものです。