団体受検 取組事例(小・中・高 等)
中学校
学習への意味付け・動機付けを行う/中学校/東京
関東 / 東京
[私立] 海城中学・高等学校
国語科 本間 純一 先生
1.輩出したい人材像と環境の変化による影響
本校は「国家・社会に有為な人材を育てる。」という建学の精神の下、パブリックマインドのある真のリーダー人材の輩出を目指しています。
現代は、技術革新、ソフトサービスの進化によって、努力をしなくても受け身の状態で気軽に楽しんだり、感動したりできる社会となりました。
生活者は消費行動を促すような大量の情報にさらされ、油断をしていると知らず知らずのうちに自分が意思決定したかのような気にさせられて、購買行動を促されてしまう、ということもおこっています。このような環境は生活者の無思考状態を助長すると考えられています。だからこそ、生活者たる私たちは意識して思考力を鍛えなければなりません。いわんや、成長過程にある生徒たちはなおのこと、その必要があるのです。
また、このような社会だからこそ、情報を提供する側、つまり気軽に楽しめたり、感動できたりするコンテンツを創る側には、倫理観に基づくビジョンの想像力と、そのビジョンを他者と共有し具現する創造力がより必要になります。そして、そのプロセスにおいては、極めて高い論理性とそれを担保する言語力が求められるのです。国語科では、生徒たち全員が確かな言語力を身につけ、"言葉遣いの名手"となり、パブリックマインドのある真のリーダー人材として、社会で活躍できるよう指導しています。
先述したような無思考状態を助長する、生活者にとって非常に便利な生活環境は、生徒の学力にも影響を与えているように思います。
例えば、近年、本校の入学者には、基礎領域をしっかり身につけた学力レベルが極めて高い層と、総体的には高い学力を有しながらも、基礎的な内容が一部未習得なままの層との2層に分かれる傾向が出ています。後者のような生徒層が現れたのは、先述したように生徒たちを取り巻く環境の変化が影響しているように感じています。仮説ではありますが、入試をクリアするための効率的な対策技術の高度化という環境の変化の中で、生徒の基礎反復訓練が軽視され、不足しているためと推察しています。
実際に、本校に入学してきた生徒たちも、反復訓練の習慣が定着していないケースもここ一、二年は散見されるようになり、反復訓練の不足は、一部の生徒だけでなく入学者全体の問題になりつつあります。そのため、生徒たちに対して反復訓練についての意味付け、動機付けを意図的に行う必要がでてきたと感じています。
2.生徒の国語に対する苦手意識の顕在化
さらに、近年の傾向として、生徒の国語に対する苦手意識が目立つようになってきました。本校の入学希望者は、理数系科目を得意とする生徒が多く、入学時には多くの生徒が国語に対して苦手意識を持っています。国語に苦手意識を持つ生徒たちは、「国語の試験は、正解と不正解の境目が分かりにくく、試験の模範解答を見ても、具体的に何が良くて、何が悪いか釈然としない。」というふうに思っているようです。
しかも、高校1年生以降は、生徒の国語に対する優先度が明らかに低下します。生徒たちは、高校生になり、大学受験が視野に入ってくると、どうしても、英語や理数系科目に力が入ってしまうようです。国語は、大学入試では点数差がつきにくい科目であり、学習してもすぐにその成果が点数に反映されにくく、また、どこまで学習すれば良いかも判断しづらいというのが、その理由のようです。
このような状況が目立つようになってきましたので、国語科として、まずは『国語は楽しい』、『国語は使える』、『国語は報われる』というパラダイムを、入学後早期に形成することが重要だと考えました。とりわけ、全ての学習の土台ではあるが、生徒たちが無味乾燥と感じてしまうような反復訓練でしか身につけることのできない漢字力については、特に意味付けの必要性を強く感じています。なぜならば、確かな漢字力は、国語だけでなくあらゆる教科の土台となり、早期に体得することで生徒のその後の学習を大いに助けることになるからです。
3.漢字学習への意味付け・動機付け
漢字学習にあたっては、まず、漢字が、意味を持ったモジュールの集合体であることを説明し、生徒に認識させるようにしています。「一つの漢字は、意味や音を表す部品で構成されており、たとえ初めて目にする漢字でも前後の文脈とも併せて考えることで、意味や読み方を類推することができる。」漢字について、これまで、ただ覚えさせられてきた経験しかない生徒が多いので、このような投げかけが、彼らのやる気を刺激し学習意欲を大きく向上させるのです。
また、別の観点の意味付けとして、漢字学習(漢字力を体得すること)の利点を将来と直近とのそれぞれで伝えるようにしています。
将来の利点として、「将来社会に出て必須の能力である基礎学力や対話力のベースとなる」ことや、直近の利点として「センター入試や大学入試では、1点2点の差が合否を分ける場合もあり、漢字は確実な得点源となる」ことなどを中学生の生徒にもわかりやすいように、例え話を交えながら伝えるようにしています。
将来の利点だけでは、全ての生徒が、その必要性をリアルに感じることは難しいでしょうし、逆に直近の利点だけでは、表面的で本来的な学習の動機付けとはなりません。両者のバランスが大事だと考え、生徒が興味を持ち、且つリアリティを感じる伝え方を心掛けるようにしています。
4.「漢検」の取組内容と本校での位置付け
本校は大学受験のための先取り授業を一切行いません(詳細は学校長 水谷先生の記事を参照)。しかし、漢字力に関しては、「漢検」を一つの到達指標として活用し、中学生のうちに、高校生の履修範囲である常用漢字を活用できるレベルである漢検2級に全員を到達させるように指導しています。
先述したように生徒たちは、高校生になるとどうしても他教科の学習に力が入ります。しかし、何度も申し上げているとおり、漢字力は全ての学習の土台であり、早期に習得することが、その後の全ての学習に影響を与えるためです。
具体的には中学1年生で3級、中学2年生で準2級、中学3年生で2級を目標級とし、生徒全員を2級に到達させることを目指しています。漢検は国語の領域で努力が報われることを経験する良い機会であり、国語に対する苦手意識を払拭する仕掛けの一つであると言えます。
また、受検級を中学1年生で3級と標準的な学年該当級よりも2ランク高い級に設定していますので、合格するためには、反復訓練を相当量、積み重ねなければなりません。つまり、「漢検」は反復訓練の重要性を理解するきっかけになっているとも言えます。
全員を目標級に到達させるための工夫として、毎年秋の第2回検定を中学生全員で受検し、合格まで届かなかった生徒のために再挑戦する機会を第3回に設け、積み残しなく進級させようと考えています。(幸いにして平成19年度の生徒は全員が目標級を取得して進級しました。)2点目の工夫としては、協会発行書籍である『漢字学習ステップ』を活用し、全分野を万遍なく修得できるようにしています。また、学習を通して覚えた語彙は、文中で活用できなくては意味がありませんので、問題として出題されている漢字語彙だけでなく、問題文もその語彙の使い方の用例として一緒に記憶させるようにしています。
漢字力は文脈の中で活用できるレベルまで定着させなければなりません。その定着度が一年も経てば明確に成績に表れてきます。漢字力のような基礎領域に不確かな部分があると、しっかり定着している生徒と比較して、たとえ同じくらい努力をしても、学習効果に差がついてしまうからです。しかし、仮に未習得であったとしても、生徒自らが未習得の部分に早期に気がつき、そこを補強すれば、その生徒の学力はしっかり伸びるようになります。「漢検」は、生徒自身がそこに気づけるよいきっかけにもなっています。
※掲載内容(所属団体、役職名等)は取材時のものです。