団体受検 取組事例(小・中・高 等)
中学校
リーダーとしての素養を身につける/中学校/東京
関東 / 東京
[私立] 海城中学・高等学校
学校長 水谷 弘 先生
1.国際社会に貢献するリーダーを育てる
本校は、「国家社会に有為な人材を育てる」という建学の精神に基づき、「国際社会に貢献するリーダー」を育てたいと考えています。これからの社会を担っていく生徒たちを育成するには、生徒が将来巣立っていく21世紀の社会を、私たち教員がどう捉えるかが重要です。
私は、これからの社会は非常に不透明で不確実性が高い社会であると考えています。地球上には、およそ200の国家があり、その中におよそ4000余りの民族が存在していると言われています。21世紀は民族と民族の争いの時代と言われていますが、まさに今世界の各地でそれがおこってしまっています。
転じて、環境問題を見ますと、地球温暖化は20年も前から叫ばれていたことですが、人類はこの問題の解決策をまだ模索している状態です。このまま問題を先送りにして、何も手を打たずにいれば地球は滅んでしまうでしょう。
民族間の争いや環境問題などは、地球にいる全ての人が知恵を出しあいながら協力して解決していかなければならない地球規模の課題です。
このような非常に複雑で、大きな課題に直面している現代において、本校の生徒一人ひとりの使命は、自らを失うことなく、自己実現を目指し、そして、世界の人々と共存し、平和で豊かな社会を創造することのできるリーダーになることです。
2.海城の育てたい人物像『新しい紳士』
本校では、中学、高校と手を抜かずに努力すれば、大学で専門領域を学習し、研究できるだけの能力を全ての生徒が十分に身につけることができます。しかし、それだけでは本校の卒業生として、十分ではありません。生徒には、所謂「人間性」や「人間力」と言われる「国際社会に貢献するリーダー」となる素養を身につけることを期待しています。
本校は、そのような人物を『新しい紳士』という言葉で表現しています。新しい紳士とは(1)「フェアーな精神」で物事を判断し、(2)「思いやりの心」で人に接することができ、(3)「民主主義を守る意思」を強く持ち、(4)「明確に意思を伝える能力」に溢れている人物です。以下、その詳細について述べたいと思います。
=『新しい紳士』の4つの柱=
(1)フェアーな精神
先述しましたように、社会はますます複雑化し、多様化した価値観を持つ者同士が関わり合うことが避けられなくなっています。そんな社会を生き抜くためには、『フェアーな精神』に基づく、的確な判断力と公正な態度が欠かせません。本校ではこのように考え、『フェアーな精神』と、先入観にとらわれず、さまざまな角度から総合的に物事をとらえる力。増え続ける情報を冷静に分析し、公平・公正に取捨選択する力の育成に重点を置いています。
(2)思いやりの心
人間は一人で生きられるわけはなく、全ての人は関係性の中で生きています。ですから、まず相手のことを真剣に考え、相手の気持ちを感じること。これが何よりも大切なことだと考えています。
(3)民主主義を守る意志
『民主主義を守る意志』とは、弱者への配慮と置き直すことができると思います。他者への、特に弱者への配慮は、社会の中で、また世界の人々と共存していく中で必要不可欠なことであると思います。
(4)明確な意思を伝える能力
『明確な意思を伝える』ということは、相手の立場を考えながらその中で自分の考えをきちんと伝えるということです。どんなに立派な考えも、相手に伝える技術を持っていなければ、その真価を発揮することはできません。また、グローバル化し続ける社会で活躍するためには、高いコミュニケーション能力が欠かせません。世界中の人々と、意思の疎通を確実に図り、相互理解することができる能力が必要なのです。
これら4本の柱を備えた人物になることは、易しいことではありません。しかし、このような精神や能力を身につけるために、何か特別な訓練や指導を行わなければならないかというと、そうではありません。このような素養を身につけさせるには、当たり前のことが当たり前に出来るように指導することから始まります。まずは、きちんとした「基礎学力」の定着をはかり、礼儀やマナーを体得させることが肝心なのです。
3.「基礎学力」定着のために履修範囲全てを学ぶ
国際社会にあってリーダーは、(1)「自分自身をありのまま捉えることのできる自己客観視力」、(2)「相手の意見をしっかりと捉えて、自らの考えをきちんと伝えられる自己表現能力」、(3)「多様性を受容できるだけの教養」、(4)「専門分野での実力とそれを全体の中で位置付けられる広い視野」(5)「何事にも積極的に取り組む旺盛なチャレンジ精神」以上を下地として備えていなければならないと考えます。
「基礎学力」とは、リーダーの下地となるこれらの能力を身につけるために必要な土台となる学力を指します。「基礎学力」を定着させるために、高校生まではいわゆるオールラウンドで学習しておくことが重要です。文系のみ、理系のみに偏った知識だけを習得していても、実社会では既に通用しなくなっていると聞きます。本校では、文系の生徒も微積分まできちんと学習し、理系の生徒も古典についてしっかり学びます。
また、先取り授業も行いません。基本科目の授業時間数は公立校と比較し多くなっていますが、その時間を先取りにあてるのではなく、内容の理解を深めるために使っています。例えば国語の教科書には、題材としている作品の一部分が掲載されていることが多いと思います。余分に取っている時間を使い、掲載されていない部分も含めて作品全体をじっくり読み解くようにしています。
さらに本校は、高校までの履修内容をあらゆる教科においてしっかり定着させるために、高校3年生の2学期の中間考査までは大学受験対策も行っていません。大学受験のための勉強は、2学期の中間考査以降の3~4ヶ月で一気に行います。他の受験校と比較すれば期間が短いかもしれませんが、それまでに生徒がきちんと「基礎学力」を身につけていれば、大学受験対策は短い期間でも十分可能なのです。
ここまで述べましたように、「基礎学力」とは、基本的に高校生の履修範囲全てだと考えます。そして、「基礎学力」は全生徒に確実に身につくように指導しています。なぜならば、大学受験を突破するための効率的な学習で身につけた付け焼刃の学力では、先述の国際社会のリーダーに必要な下地など到底身につくはずもないからです。
本校の生徒に「基礎学力」が定着していることは、中学3年生が作成する「卒業論文」にも現れています。原稿用紙50枚程度の卒業論文は、バラエティーに飛んだ社会性溢れるテーマの論文ばかりです。生徒一人ひとりの論文のテーマが違いますから、教員の指導も大変ですが、毎年、力を入れて指導しています。
本校は、生徒たちが将来、やりたいことをするまでの、通過点に過ぎません。大学も大学院も同じだと考えます。本校の大学進学実績を経年で見てみますと、ある大学に40人進学した翌年に、同じ大学に60人進学することがあります。これは学年によって学力に差があるのではなく、生徒一人ひとりの意志が進学先に現れている現象なのです。生徒の進路を考える時に「何が何でも東大だ」、「医学部だ」という指導の仕方は一切しません。本校は大学に進学するための受験校ではなく、一人ひとりの意志を現実化するための『進学校』だからです。だからこそ、生徒の将来のために、「基礎学力」の定着に時間を掛けてじっくりと取り組んでいるのです。
※掲載内容(所属団体、役職名等)は取材時のものです。