団体受検 取組事例(小・中・高 等)
中学校
実際に使える知識や知恵を培う/中学校/東京
関東 / 東京
[私立] 富士見中学・高等学校
学校長 深町 敏夫 先生
1.理想の生徒を育むためのベースは基礎学力
本校の建学の精神は、純真・勤勉・着実です。純真とは純粋で邪念のないまっすぐな心を、勤勉・着実はたゆまぬ努力をする心を言います。この建学の精神のもと、心身ともに大きく成長する人生で最も大切な時期に、調和のとれた全人教育によって、明るく素直で向学心に満ち、情操豊かな女性を育ててきました。
そのうえで本校は、国際化・情報化の進んだ現代社会において活躍しさまざまな形で社会貢献できる知的な女性の育成を目指して、以下3つの教育目標を掲げています。第1は「良識ある判断力の育成」、第2は「自主・自立の精神の育成」、第3は「協調・連帯の精神の育成」です。
「基礎学力」を広義の意味で捉えますと、入試対策のために詰め込んだ「編集や加工のできない知識」ではなく、社会に出た時に「実際に使える知識や知恵」とその「知識や知恵の使い方」であると考えています。「知識や知恵の使い方」とは、「考えること」や「表現すること」、「問題を発見・解決すること」などです。
上記にある本校の教育目標は、いずれも「基礎学力」と密接に関わっています。良識ある判断のベースは「基礎学力」です。また、「基礎学力」を身につける過程で「自主自立の精神」が育まれます。さらに、「協調・連帯」を図るには「基礎学力」が不可欠なのです。したがいまして、本校が目指す卒業生の生徒像の根幹に、「基礎学力」があると言えます。
以下、その詳細について述べたいと思います。
1-1 「良識ある判断力」
入学試験などの選抜試験では試験の性質上、絶対正解があることが殆どです。しかし、実社会では、判断をくだす者の立場や背景によって、それがどのような判断であっても全てが正解となります。唯一絶対正解があり、他の判断は全て不正解であるというようなことはまずありません。つまり、社会に出た後は学生までとは違い、判断や意思決定とは正解の中から正解を選ぶことであり、その他多くの正解を捨てる事になるのです。社会に出てからしばらくは、日々繰り返される小さな判断や意思決定ですむでしょうが、長じるにしたがって社会への影響度が大きい意思決定もするようになります。『良識』つまり「健全な考え」に基づいた判断をする必然性はここにあります。
「良識」(「健全な考え」)は、生徒が生まれながらに持っている良心に加えて、成長過程で獲得する「広く、深い知識や教養」が大きく影響します。「広く、深い知識や教養」が基盤としてあるからこそ、正解の中から正解を選ぶような悩ましい状況下でも、自信を持って決断ができるようになるのです。良識ある判断力のベースは、成長過程で培った「知識や教養」であり、それは先述した「実際に使える知識や知恵」、つまり「基礎学力」の構成要素の1つです。
1-2 「自主・自立の精神」
「自主・自立の精神」とは、自ら考え、判断し、自己の責任において行動できるようにすることです。このような精神は、一朝一夕に身につくものではありません。学校生活のあらゆる場面を通して、やれば出来るという小さな成功体験を一つずつ積み重ねることが重要です。小さな成功体験を積み重ねる事で生徒に自信と意欲(自己肯定感)が育まれます。それが、主体性(自ら考え、判断し、行動できるようになること)のベースとなるのです。
また、小さな成功体験の積み重ねは、見せかけの力ではない、本当の学力をつくることにもなります。生徒それぞれの適性や実力に見合った目標を一緒に設定し、それを一つずつクリアしていく、少し遠回りかもしれませんがこの過程が大事だと考えています。そして、ここで培われたものが、詰め込みではない「実際に使える知識や知恵」となるのです。その観点から、自らの努力とそれによって得た成功体験から生じる自己肯定感は「基礎学力」を身につけるのに必要不可欠なものだと言えます。
1-3 「協調・連帯の精神」
「協調・連帯の精神」とは、集団生活を通して相手の考えも広い心で受け入れ、「互いに協力しあう心」や「人を思いやる心」を養うということです。将来、社会生活を送る上で必須の「社会性」の基盤となる精神とも言えます。「協調」を辞書で調べますと、「互いに協力し合うこと。特に、利害や立場などの異なるものどうしが協力し合うこと。」とあります。
実社会では、自分と同じ立場に立ち、同じように考える人と協業することよりも、自分とは異なった立場で、異なった意見や考えをもっている人と協業することのほうがずっと多いはずです。まさに、協調・連帯が求められるのです。協調・連帯には多様な考えや立場を理解し謙虚に受容する力が必要です。そして、そのような多様性を受容する力は歴史の授業や、読書などで「時空を越えた追体験」をすることによって、数多くの社会観、人生観に出会い徐々に獲得されていくものなのです。これがまさに先述した『社会に出た時に「実際に使える知識や知恵」とその「知識や知恵の使い方」』そのものなのです。
このようにして育まれた生徒の「協調・連帯の精神」は、クラブ活動や学校行事で発揮されています。本校ではクラブ活動が非常に盛んに行われています。本校のクラブ活動は、大会などで良い成績を収めることだけを目的とはしていません。上級生、下級生の人間関係の中で、ルールやマナーを学習することに意味があると考えています。クラブ活動は、「協調・連帯の精神」を発揮し、それをさらに育む場としても機能しているわけです。
運動系・文化系問わずクラブ活動における人間関係は、社会の縮図です。上級生・下級生という縦の関係があるのはもちろんのこと、試合や発表会などでチームの代表として表舞台に立つ生徒もいれば、後方から代表者を支援する生徒もいます。しかし、どちらの生徒も熱心に取り組む姿勢に違いはありません。それは、生徒それぞれがチームの目的と自分の役割を認識し、チームのために何が出来るのかを考え、それぞれの立場で貢献しようとしているからなのです。
本校の生徒が、このようにそれぞれの立場で、部活動に熱心に取り組んでいるのは、やはり「実際に使える知識や知恵」(「基礎学力」)が定着していることの表れであると考えています。
2.基礎学力定着は全ての教科を通して取り組むべき課題
生徒にとっては負担になっているかもしれませんが、国・数・英の主要3教科をはじめ、理科・社会においても「考える力」・「発表する力」・「問題を発見・解決する力」などの総合的な力を育成し、本当の意味での「基礎学力」の定着を考えています。本校では、「基礎学力」の定着は、全ての教科を通して取り組むべき課題であると考えています。各教科を通して文章を書く機会を多く提供し、「報告」・「グループワーク」・「振り返り学習」などにも力を入れています。
国語科においても当然、文章指導に力を入れています。中学卒業までに卒業研究として、原稿用紙30枚程度の論文を書かせています。論文作成にあたり、どういう語彙を選択させるかは非常に大きな問題です。作文と違い、論文は共通了解のない不特定多数の人が読むことを前提として書かれるからです。この取り組みから生徒は語彙選択の難しさを知り、文章の書き方を覚えます。またそれと同時に、大きな達成感を感じているようです。
さらに、文章作成力の土台でもある、語彙力、その中でも特にそのベースとなる漢字力の指導にも力を入れています。「漢検」には中学1年生~高校2年生が全員受検しています。年3回受検機会を設けて必ず最低年1回は受検するように指導しています。平成18年度の中学3年生は全員が目標としている3級に到達しました。現在、生徒達は高校卒業までには2級に到達することが当たり前と思っています。これは国語科はもちろん他教科の先生方も漢検2級到達がミニマムラインとして必修であるとの告知をホームルームを通じて行っているからです。また、漢字小テストも国語科以外の先生が担当となって週に1回行っています。
中学3年生までに3級、高校2年生までに2級取得という目標は生徒全員に浸透しています。極端に早期の習得を目指すのではなく、無理のない目標設定をしています。その学年で身につけるべき漢字力を確実に身につけることが重要と考えているからです。しかし、学習指導要領にも定められているとおり、全ての常用漢字を活用できる漢字力(漢検2級レベル)は高校生の間に身につけるべき必要最低限の力と認識しています。
国語科以外の教科であっても問題文を読み取る力は絶対に必要です。歴史を初めとして理系科目でも文章を理解した上で問題を解く力は不可欠であり、それは母国語力からなります。この力が低下してしまうことは、国語科だけの問題ではなく、他教科の先生方にとっても非常に重要な事です。本校では、このような考え方が教員間で共有されていますので、「『基礎学力』について、教員総がかりで底上げをしていこう」というが風土が出来上がっているのです。
※掲載内容(所属団体、役職名等)は取材時のものです。