団体受検 取組事例(小・中・高 等)
中学校
「達成感」をセルフマネジメントの力に/中学校/東京
関東 / 東京
[私立] 普連土学園中学校・高等学校
国語科主任 鈴木 呂嘉 先生
1.本校が感じていた課題とその工夫
本校では数年前から、生徒の漢字指導に関して大きく二つの課題を感じていました。
(1)新入生の基礎言語能力の低下
新入生に関して、年を追うごとに手書きの文字が乱雑になり、丁寧に書こうという意識の低下を感じるようになりました。漢字に関しても、まるで図形のようにイメージで捉えているのか、細かな箇所を間違えたまま覚えていて、誤字脱字が目立ちます。中には、漢字が表意文字であるということすら学んでいない生徒までいます。また、原稿用紙の使い方なども理解していないケースも目立ちます。小学校までの国語教育がきちんと身についていない場合があるようです。
(2)生徒の漢字学習への意欲の低下
一方で、生徒の学習意欲の低下に関しても以前から問題になっていました。漢字力育成に関しては、20年以上前から校内で「漢字一斉テスト」を行っており、以前はそのテストを目標に自学自習をする生徒が大半でした。しかし昨今では、学習をせずにテストに臨む生徒が目立ってきました。基準点をクリアできなかった生徒に再試験を課しても、学習してこない生徒もいます。全般的に自学自習の習慣が身についていないと感じます。
以上のような現状を受けて、中学1年生が漢字知識や学習習慣などの基礎的な領域を「修復する期間」になってしまっていました。このままの状況では、国語に限らず全教科の学力向上につなげていくことができません。また、中高6年間の教育で生徒の学力を大学進学レベルまで引き上げることも困難です。
以上の課題を解決するため、本校では様々な工夫を行うようになりました。例えば、漢字の意味や部首などの基本的な内容も含めて、全ての生徒の漢字力を底上げするために、漢字学習の副教材として中学1~2年生対象に学園オリジナルテキストを作成しました。これは、既に廃刊となってしまった『イラストで覚える中学必修漢字』(文英堂)を小学校までの漢字を学び直すためのテキストとして再版の許可をいただき、改編したものです。中学2年までに小学校までの漢字をしっかり定着させることを目的にしています。
その後、中学3年~高校1年で漢検5級~2級対策テキストを、高校2年~3年で大学入試漢字問題対策テキストを使用し、高校卒業までの漢字力を身につけさせると共に、6年間で大学入試に対応できるレベルまで漢字・語彙力を高められるカリキュラムを構成しています。
2.「漢検」導入の背景と効能
上記の工夫に加えて、平成17年度からは「漢検」も活用しています。校内テストに加えて、学習の動機付けとなる、そして継続学習を生徒に習慣付けられる何かが必要だと感じたからです。
本校では、学業やスポーツ等で優秀な成績を収めた生徒を全校生徒の前で表彰するなど、特定の個人をクローズアップするという習慣はありませんでした。これは「可能性は全ての個人が等しく持っており、他者と比べるものではない」というクエーカーの理念によるものです。ただ、それでは「褒める機会」がなかなかありません。意欲向上の鍵は、「褒める」ことに尽きます。そこで、漢字学習に関しても、頑張った生徒達に「達成感」を与えて、「褒める機会」を与えようと考えたのです。
「漢検」は公に通用する資格試験であり、「合格」即ち「社会に認められた」という経験が生徒にとって大きな「達成感」になります。また、「全員受検・全員合格」を学校の目標とすることによって、特定の個人の成績ではなく学校全体の成績を「褒める」ことになり、学校の理念とも矛盾しません。「全員受検・全員合格」という目標は、保護者と生徒に対して繰り返し伝えるようにしました。その結果、「漢検」挑戦に向けて全体の気運が高まり、生徒の自学自習を促せたと感じています。
平成17年度は中学1年~2年の全員合格を達成し、協会から「最優秀団体賞」も受賞することができました。全校集会でそのことを発表した時、生徒の間から歓声が沸き起こり、満場の拍手が鳴り響きました。生徒にとっては、自分達の日頃の努力が社会に通用することが確信できた瞬間でした。教員を含めた全員にとって、達成感を味わった瞬間でした。確実に学校全体の一体感が生まれていました。
翌年の平成18年度は、生徒がそれぞれ上位級を目指したこともあり、残念ながら全員合格はなりませんでした。ですが、協会から「優秀団体賞」を受賞し、2年連続で入賞することができました。これは、全国の上位1%以内に入る好成績と聞いています。
3.今後の目標と育てたい能力
これからは、中学1年=5級、中学2年=4級、中学3年=3~準2級、高校卒業時までに2級を到達目標級として明確化し、全員合格を目指していきます。5級が小学校修了レベル、3級が中学校修了レベル、2級が高校卒業レベル(常用漢字の読み書き活用レベル)であり、各学年の配当漢字に準拠した目標設定です。特に低学年に関しては、成功体験を確実に積んでもらいたいこともあり、ぜひとも全員合格を達成したいと考えています。
漢字学習の要諦は、主に以下の2つと考えています。
(1)地道に忍耐強く続けること。
(2)ただ書くのではなく、知性を使って意味や組み合わせを考えながら書くこと。
漢字とは、「努力・忍耐・習慣付け」といった精神的要素と「知性」を同時に鍛えられる、大変素晴らしい教材なのです。
以上の漢字学習に、「漢検」などのゴール設定を加えることで、社会に出てからも有用な「セルフマネジメント能力」の育成にもつながると考えます。この能力は、ある「目的」を達成するために「何を(分量)」「いつまでに(納期)」やれば良いかという事を、「目的」から逆算して計画し、それを実行できる能力のことです。「セルフマネジメント能力」は、大学入試突破のためにはもちろん、社会に出てからも求められる能力です。
「漢検」は、目標級合格(目的)のために必要な漢字の数(分量)が決まっており、検定日(納期)も決まっているので、「セルフマネジメント能力」育成にも最適な手段であると思っています。
今後は、校内の「漢字一斉テスト」の結果と「漢検」の結果の相関関係を調査するなど、より充実した指導に活かせるよう、工夫を重ねていきたいと思っています。
※掲載内容(所属団体、役職名等)は取材時のものです。