団体受検 取組事例(小・中・高 等)
中学校
内なる光を見いだし、輝かすために/中学校/東京
関東 / 東京
[私立] 普連土学園中学校・高等学校
学校長 畠中 ルイザ 先生
1.育てたいのは『自分を大切にしながら、他人を思いやれる生徒』
本校は今年(平成19年)創立120年を迎える、ミッションスクールです。日本では唯一のクエーカー(※)によって造られた学校であり、独自の教育理念を持っています。
クエーカーの考え方は、全ての人は「内なる光」「神の種子」- 神からそれぞれに与えられた素晴らしいものを持っているとするものです。特定の儀式を行ったり、人から教えられなくても、人は皆それぞれに正しい道を自分で探すことができるとする考え方なのです。
一人の人間が理解できていることなど、世の中のほんの僅かなことに過ぎません。長い人生の中で、様々な理解を深めていくにつれて、その人の価値観や物の見方・考え方が変化するのは当然だと考えています。故に、時として生じる、「進化論」をめぐっての科学と宗教の対立といった問題も、クエーカーでは無縁の話なのです。多様性を受け入れる非常に柔軟な考え方を持っていることが、大きな特色です。
また、「平和主義」もクエーカーの大切な理念のひとつです。クエーカーは、戦争に直接的に参画することは決してありません。だからといって、争いを見て見ぬふりをするわけでもありません。争いには絶対に反対する立場から、皆が平和になれるように行動をします。例えばベトナム戦争の際には、負傷者に義足や義手を付けるための施設を運営し、敵味方を問わず活動を展開しました。この、「争いには参画しないが傍観もせず、主体的に平和的解決を図る」という理念も、本校の教育に脈々と受け継がれています。
これらの理念を踏まえ、私たちは『自分を大切にしながら、他者を思いやれる生徒』を育てたいと考え、指導しています。自分の可能性を信じ、他者の考え方も受け入れながら、柔軟に変化・成長していける女性を育んでいきたいと思います。
※17世紀に英国で設立されたキリスト友会(Religious Society of Friends)の呼称。
2.特色ある「礼拝の時間」
本校が大切にしている「礼拝の時間」も、特色の強いものです。牧師先生が毎回お話をされるのではなく、クリスチャンか否かを問わず、教員はもちろん、生徒にも礼拝で話をする機会があります。月曜と火曜は教員が、木曜のクラス礼拝と金曜は生徒が担当します(水曜は「沈黙の礼拝」によって、各々が静かに自分の心をみつめなおす時間に充てています)。
話の中味は、いつもキリスト教に直接関するお話とは限りません。また、必ずしも立派なことや尊敬されるようなことを話す必要もありません。自分が純粋に興味深いと感じたこと、生活の中から自然と湧いてきたこと、ふと気が付いた大切なことなど、実践的なことを話してもらうようにしています。
大学生や社会人になると、研究発表やプレゼンテーションなど、「なんらかの意図や目的を持った話」を聴く機会は多いでしょう。一方で、他者の「素朴で素直な思い」を聴くという機会は、本当に少なくなります。ましてや、自分の素朴な思いを多くの人の前で話す機会など、ほとんど無いでしょう。人の話を聴き、人前で話すという機会をこれだけ多く与えている学校は、非常に稀だと思います。卒業生からも、「礼拝の時間を通して、いろいろな考え方があって良いのだ、ということに気付きました」という声が寄せられています。
本校の「礼拝の時間」とは、毎日の出来事に追われ、心の奥底にしまい込まれているものをつい忘れてしまっている時、普段の自分の行いを振り返る時間です。同時に、他者の話を聞いて、その人その人の尊敬できる点に気付く時間なのです。これからもぜひ大切にしていきたいことのひとつです。
3.これからの課題は「書く」機会の充実
「礼拝の時間」に象徴されるように、「人の考えを吸収し、自分の中で消化して、自分の考えを発信すること」これこそが学びの本質であり、「基礎学力」の重要な基盤であると思います。発信の方法は、「話す」ことと「書く」ことです。今後の本校の課題は「書く」機会の充実だと考え、現在様々な工夫を行っています。
年5回行っている校内の漢字一斉テストもそのひとつであり、20年以上も前から続けています。また、1年間の学習の集大成として、中学生全員で「漢検」に挑戦しています(高校生は希望者)。高校では、大学入試対策としての小論文指導に力を入れています。小論文指導専門の教員を配置し、1~2年生で校内小論文コンクールを行い、2~3年生には選択の小論文講座を平成19年度から実施しています。もちろん、入試対策のためだけではなく、実践的な文章力育成にも力を注いでいます。例えば、社会科ではレポート指導を充実させています。特に中学1年生においては、チームティーチングで資料の整理の仕方や課題の決め方などの初歩段階から、個別に細かく指導を行っています。
「書く」指導は日本語に限りません。中学生に対しては、英語で日記を書くことも推奨しています。特に強制はせず、書きたい生徒が自分のペースで書いています。「礼拝の時間」と同様、自分の中から湧いてきた素朴な思いを、英語で綴れば良いのです。自分で表現したいことを表す英単語や英熟語を探すことになりますから、英語がとても良く身につくのです。
既にこれらの工夫を行っていますが、まだまだ「書く」機会は少ないと感じています。これからも益々の充実を図っていきたいと考えています。
本校の教育活動の中には、目前の大学入試に直接は役立たない、一見遠回りで非効率に感じるものもあるかもしれません。しかし、これらの学びこそが、生徒にとって生涯活かすことができる「基礎学力」を培い、これが「内なる光」「神の種子」の輝きであると確信しています。
※掲載内容(所属団体、役職名等)は取材時のものです。