団体受検 取組事例(小・中・高 等)
中学校
子どもたちが幸せに生きるために ~コミュニティ・スクールの仕組みを生かした、自律的な学びの機会づくり~/中学校/北海道
北海道
[公立] 小樽市立朝里中学校(朝里中学校 学校運営協議会)
校長 森 万喜子 先生
■子どもたちが幸せに生きるために~ウェルビーイングの深化を目指して~
本校の教育目標として、次の3つを掲げています。
- 自律:自分で考え、表現し、行動する人
- 承認:自他のよさを認め、互いに学びあう人
- 創造:よりよい社会の創造に果敢に挑戦する人
この教育目標は、私が朝里中学校に着任した年に、教職員、保護者、地域の方々へのアンケート、議論を経て改訂したものです。もちろん、教育目標は校長ひとりで決めることも可能ですが、地域の学校として、たくさんの人に当事者になってほしいと考えました。今は、子どもたちだけでなく保護者や教職員、地域住民も一緒になって目指す目標として掲げ、毎年の学校運営協議会では必ずこの学校教育目標と学校経営方針をもとに熟議を行っています。テーマは「幸せに生きるために」です。子どもたちには、「自律・承認・創造」を体現し、「自他ともに幸せになれるように考え、行動する人」になってほしいと願い、「子どもを主語に」さまざまな教育活動を行ってきました。
■コミュニケーションの基礎となる言葉の力を身につける
「自他ともに幸せになれるよう考え、行動する人」として生きていくためには、言葉を通じて相手の考えを的確に理解し行動すること、自分の考えを相手に的確に伝え、納得や行動を引き出すことが必要です。そのためには「言葉の力」(言葉を的確に理解し、適切に活用する力)を身につけなければなりません。最近、テレビやSNSなどにおいて、一方的に言葉で相手を言い負かす、「論破する」風潮が高まっており、子どもたちも影響を受けているように感じます。実際、それらは論理的でもなんでもない揚げ足取りだったり、言葉の暴力だったりします。子どもたちには、相手の立場や意見を尊重しながら、自分の立場や意見を言葉で伝え、相互理解と納得解を形成していく経験をたくさん積んで、真に自他がよりよく生きるための「言葉の力」を身につけてほしいと願っています。
■コミュニティ・スクールの仕組みを生かした「漢検」の活用
学校運営協議会の会長から、「教育目標の具現化のために子どもたちだけでなく、保護者や地域住民も一緒に参加できる学びの場をつくるきっかけとして、地域学校協働活動で漢検を活用してみるのはどうか」という提案がありました。その提案を月に1度開催している学校運営協議会で熟議のテーマにし、「漢検」を活用するにあたって、いつまでにどのように進めていけば、みんなが幸せになれるのか具体的なアイディアを出し合い、実施計画をとりまとめました。
「漢検」の実施にあたっては、学校ホームページやコミュニティ・スクールだよりでの発信はもちろんのこと、学校運営協議会委員の保護者や地域住民からも個別に発信いただき、広く受検者を募集しました。その結果、本校生徒だけでなく、小学生や保護者、地域住民も受検しました。「漢字」は高齢者の方々にも親和性が高いので、ライフワークとしてチャレンジし続けている方がいることもわかりました。3歳から103歳まで受検している「漢検」を活用することで、「言葉の力」をつけながら、子どもと大人が一緒に学ぶ機会となりました。小学生のお子さんと親子で受検された方からは「あらためて、学ぶという新鮮な体験を楽しめました。子どもと一緒にキッチンのテーブルで勉強する時間も貴重でした。」という感想をいただきました。
「学ぶ」というと、どうしても学校だけでするものだというイメージが強いと思いますが、大人になってからも学び続ける機会は必要不可欠です。コミュニティ・スクールの仕組みを生かすことで、生涯にわたって学び続ける人を育てる風土や文化を創造できると考えています。
■自律的な学び方を習得する有効なツールとしての検定活用
「漢検」に限らず「文章検」や「英検」など検定試験は、子どもたちが自律的な学び方を習得する有効なツールだと捉えています。将来、子どもたちが受験する高校入試や大学入試、就職試験、資格試験を突破するためには、勉強の段取りを身につけておくことが必要です。
高校入試に向け受験対策を始めるにあたって「何をしたらいいかわからない」という子どもが多いと感じています。そのような状況では、子どもはどうしても教員や親、塾の先生などの大人に言われたとおりに勉強してしまいます。つまり、自分では考えず、人任せで言いなりの勉強をしてしまうということです。
一方で、検定試験に向けた学習は、自分が決めた目標に向かって学習する中で、自分が得意なことや苦手なことをメタ認知しながら、苦手克服のために学習を繰り返すことができます。このような経験をなるべく早くから繰り返し経験することで、自律的な学び方を身につけることにつながります。子どもたちが今後の人生を歩む中で待ち受ける、あらゆる学びと成長に役に立つことだと考えています。
■子どもから大人まで学びの楽しさを共有する
「学ぶ大人が学ぶ子どもを育てる」と考えています。「勉強しなさい」と言うだけの大人と、そう言われて不愉快になる子どもという関係ではなく、コミュニケーションをとりながら一緒に学んで、楽しさを共有していくことが大切なことだと捉えています。
残念ながら「勉強はつらいけど仕方がない、やらなくちゃいけないものだ」という言い方をする大人はまだ多いですが、そのような刷り込みは自律的に学ぶ子どもを育てるには逆効果です。「勉強は新しいことや、できなかったことができるようになる楽しいものだ」ということを、大人は子どもに伝え続けることこそが効果的なのです。特に言葉の学びは、異世代間の交流から深まることが多いと感じています。ことわざや慣用句、古典の引用などは祖父母世代の人と触れ合う子どものほうがよく知っています。大人が楽しそうに学ぶ姿を子どもに示していけば、子どもはその姿を見て学ぶことに対してポジティブになるでしょう。
■今後の展望
漢検実施後の学校運営協議会で、「漢検の学習会を学校図書館で地域も一緒になってやってみたらどうか。その中で、中学生が小学生や大人に教えたり、大人が小学生や中学生に教えたりなど同じ空間で世代を超えた学び合いをする機会をつくってみたら面白いのではないか」という意見が出てきました。委員のみなさんが、よりよい取り組みにするためにどのようにブラッシュアップしていくかを熟議する姿は、まさに学ぶ大人の姿そのものだと感じました。コミュニティ・スクールの仕組みを生かし、学校・地域・家庭が連携・協働して自律的な学びの機会を形成していくことは、よりよい学校づくり、地域づくりにつながっていくと考えます。今後も「子どもを主語に」を念頭に置き、より発展的で持続可能な教育活動に取り組んでいきます。
※掲載内容(所属団体、役職名等)は取材時のものです。