漢検の出題分野について

漢字検定では、漢字に関する知識・理解力・運用能力を総合的に測定することを目指して、
漢字の読み・書きだけでなく「部首」や「四字熟語」など様々な分野を出題しています。
ここでは、各分野がどのような知識・能力につながっているかをまとめました。

※ここでは、漢検2級~10級(常用漢字の範囲)の出題分野を対象としています

作問現場からのメッセージ

  1. 1.読み方

     日本語の文の中で漢字表記された語を正しく読みとる能力は、情報を誤解なく受け取るために必要不可欠な役割を果たします。読むことは意味の理解をともなうからです。

     通常漢字仮名交じり文で書かれる現代の日本語において、漢字表記される語の読み方には、音読み、もしくは訓読み、あるいは両者の混用(重箱読み、湯桶読み)、その他の読み方(当て字・熟字訓・慣用音)などがあります。原則的には音読みか訓読みのいずれかですが、語によっては上述の例外的な読み方を適用する必要があります(ex.団子、手本、野暮、雪崩、消耗など)。このような特殊な読み方をする語は数もそれほど多くありませんから、まとめて習い覚えておくのがよいでしょう。

  2. 2.音読みと訓読み

     新しい漢字を学習する際には、音と訓とを読み分け使い分けることが大切です。日本語における漢字の読み方には、漢字本来の読み方に基づく音(字音)と、漢字の表す意味(字義)に相当する日本語をあてた訓(字訓)の二種類があり、両者を学習することによって漢字の字音と字義を合わせ学ぶことができます。

     漢字の音訓に習熟することは、和語(訓による)と漢語(音による)を合わせ用いる日本語で読み書きするわたしたちにとって避けることのできない課題です。また、和語と漢語を結びつけて習得する(ex.悲しみ-悲哀、喜び-歓喜)ことでわたしたちの語彙・表現を豊かにするだけでなく、漢語の意味の理解・確認にも(ex.戦争-戦う・争う、開催-開く・催す)大いに役立ちます。

  3. 3.字構成(部首)

     部首は漢字の成り立ちと関係があり、その漢字がどのような意味の領域に属しているかを考える手がかりの一つになります。部首を識別することは、偏旁冠脚、あるいは繞(にょう)や構(かまえ)といった、漢字のどの部分がその漢字の意味を大きく規定しているかを考えるということです。

     部首を把握することによって、漢字の意味や字形への意識が促され、一字一字の漢字に対する理解が深まるとともに、より確実に効率的に習得できるようになるのです。字義を大きく取り違えたり、形の似た漢字(ex.海・梅・悔・侮、召・招・沼・紹・昭・照)を混同したりすることも少なくなります。また部首を知っていれば、漢和辞典の部首索引を活用できます。

  4. 4.語構成(熟語構成)

     漢字は一字一字が完結した意味をもっていますが、漢字と漢字が組み合わさることで意味がさらに発展します。漢字二字を組み合わせて語を構成することで、それぞれの漢字の字義を拡大したり、逆に限定したり、あるいは新たな意味を創り出したりすることは、漢字の基本的な用法です。

     このような語構成の知識は語彙獲得の手助けとなります。熟語の基本的な構成の仕方が理解できていれば、未知の語であってもその語を構成する漢字の意味を適切に組み合わせることで語義を類推できます。それは、無意識のうちに自らの語彙を広げることにもつながります。

  5. 5.書き取り
    (同音異字・同訓異字の使い分け)

     漢字には、同じ音や訓で読まれるものがたくさんあります。その中から語意・文意にふさわしい一字を選んで表記することで、知識や情報を誤りなく、またわかりやすく伝達することができます。

     漢字を手書きすると、他の漢字との字形上の類似点や相違点が意識され、字形を把握するのみならず、他の漢字との関連性に気付くこともできます。たくさんの漢字を的確に使用するためにも、新しい漢字を学習する時には、ていねいに字形をなぞるようにして確認する習慣をもつことが大切です。手で書いて覚えた漢字は(英単語もそうですが)見て覚えた漢字よりも長く記憶に残ります。

  6. 6.筆順・画数

     漢字を構成する点と線を点画と言います。点画の組み合わせによって構成される漢字の形態上の差異(ちがい)はとりもなおさず漢字の意味上の差異(ちがい)を表しています。点画の数・方向・長短・位置・形(トメ、ハネなど)等のちがいによって漢字相互の意味のちがいが明示されます。口、日、田、目、貝、見、自、首と並べてみれば、点画の機能が何であり、また一点一画もおろそかにできないことがわかります。

     筆順は、習得すると漢字を無理なくスムーズに書くことが可能になる合理的な書き順であり、これによって速く、点画の整った漢字を書くことができます。

     漢字によっては、点画の不足によって全く別の字と認識されることもあり、字形を整えて書くことは正確な情報伝達の基礎となります。そのためには、ふだんから筆順を意識して漢字をていねいに書き、漢字の字形をはっきりととらえておくことが大切です。また画数を正しく数えることができると、漢和辞典の総画索引を有効に利用できます。

  7. 7.送りがな

     送りがなは、漢字仮名交じり文を書くとき、漢字の読み方を限定しはっきりさせるために付ける仮名で、和語を漢字を用いて書き表そうとするときには避けることのできない表記法です。たとえば「細かい/細い」などのように、送りがなが違うと伝えたい内容が変わってしまうこともあります。

  8. 8.四字熟語

     漢字の長い歴史の中で産出されてきた無数の熟語の粋とも言うべきものが四字熟語です。

     漢字四字が緊密に結合し一体化して、そこに輪郭の鮮明なメッセージが凝縮されています。保革伯仲、虚々実々、呉越同舟などの四字熟語を新聞記事の類いで目にしたことのない人はいないでしょう。個人的心情(ex.感慨無量)から歴史的感懐(ex.栄枯盛衰)、全宇宙への思い(ex.森羅万象)に至るまで、四字熟語は人間的事象のあらゆる領域に及びます。そこには極度に切りつめられた表現のうちに、まとまった概念や含蓄の深い意味内容が込められています。

     ふだんから四字熟語に親しんで漢字の面白さや効率の良さを実感し、繰り返し学習しよく味わってその簡潔で切れ味のよい表現に習熟することは、日常の言語使用における冗長さや曖昧さを脱して端的で引きしまった言い回しを可能にする言語感覚を養う端緒ともなります。

  9. 9.対義語・類義語

     互いに類義ないし対義の関係にある二つの語を比較対照すると、各語の厳密な意味、両者のニュアンスや用法の違い等が鮮明に浮かび上がり、言葉を適切に選択することや正確かつ効果的に使用することの大切さに改めて気付きます。

     わたしたちは何よりも言葉によって思考するのであり、語と語、概念と概念を関係づける、つまり結合し、照合し、対比するという操作を重ねながら思考を展開します。自分が問題にしている事柄を様々に言い換え、言い直し、あるいはそれと対立する概念を想定しながら思考を進めているのです。対義語・類義語の知識の充実がわたしたちの思考を豊かにする理由もそこにあります。

     さらに、対義語や類義語に習熟し、状況に応じて自在に言葉を活用することができるようになれば文章表現の強力な武器となります。的確で行き届いた言語使用は、コミュニケーションの質と密度を高めることにもつながるでしょう。

作問現場からのメッセージ

 私たちが「社会の中で生きる」-思考し、伝達し、理解していく活動の繰り返しにおいては、言葉という道具が欠かせません。私たちの母国語である日本語は、世界の言語の中でも珍しい複数の表記(漢字・ひらがな・カタカナ、アルファベットなど)をもつ非常に表現力豊かな言語であり、この道具を使いこなすことは、人生をより豊かにすることにつながります。

 現代社会において日本語を自在に使いこなすには、漢字固有の性能を十分に心得て漢字を理解・運用しうる言語力が求められます。字義、語義の理解が欠けていると、誤った解釈のもとに文章を読んだり書いたりすることになってしまいます。

 漢字検定においては、漢字の基本要素である形・音・義の全体にわたる十分な能力を身につけてもらうため、それぞれに意義を有する出題の分野を設定しています。そこには、漢字能力を測定する技能検定という役割を超えて、漢字に対する興味関心を喚起し、漢字だけでなく日本語に関する全般的な能力向上に貢献したいという想いがあります。

 漢字検定を通して、多くの方に漢字の性能や日本語における機能について知ってもらい、漢字の正確な理解と適切な運用を通して日本語能力を高めてもらうことを期待しています。

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