第10回記念
「今、あなたに贈りたい漢字コンテスト」審査員による座談会
「今、あなたに贈りたい漢字コンテスト」が第10回を迎えるにあたり、第9回で審査員を務めてくださった皆さまに、表彰式後にお話をおうかがいしました。
第9回漢字コンテストの審査について、感じたことをお聞かせください。
ゴルゴ松本様(以下「ゴ」):いつも印象に残るのは、漢字を覚え始めたばかりの小学生の応募作品です。
橋本五郎様(以下「橋」):いつも思うのは圧倒的に小学生部門の水準が高い。なぜ高いかというと、あれこれ考えないで、非常に素直に自分の気持ちを伝えている。この自然さというものは、非常にかけがえのないものだと思います。
華雪様(以下「華」):発想も、大人が忘れてしまっているような視点で世界を捉えていて、毎回はっとさせられます。書けそうで書けなくて、でも一生懸命に書いた字のたたずまいが本当にぐっときますよね。
ゴ:中学生になると一気に大人びてくるような。
華:高校生になると、悩み過ぎてもう出口がなくなる(笑) 。最後はやけにきれいな言葉でまとめようとしちゃう子が多いので、「そうじゃない、そうじゃない」って思います。
コンテストが10年続く中で、作品に感じる変化はありますか。
ゴ:「おっ、初めて見た漢字」という応募作品が最近は多いですね。
華:より必然というか、それぞれの方の日常から気付かれたのだろうな、という文字とエピソードの組み合わせが増えてきている気がします。
やすみりえ様(以下「や」):コンテストが始まったばかりのころは、自分の好きな漢字や、イメージがいい漢字を選ぶ方が多かった。でも、どんどん回を重ねていって、他の人がどういう漢字を選んでいるかを見たら、「そうか。もっと自分に近い、自分が思いを伝えたい漢字を選ぶのがいいんだな」と、受け止めてくれた気がしますね。
橋:一時は、今とは部門構成が違って「家族部門」や「恩人部門」など贈る対象別の部門設定でした。そうすると、知らず知らずのうちに、「親や恩人に感謝を伝えなければいけない」と意識させていたのかもしれません。今の年齢層別の方が、縛られず自由に考えられるようになったと思います。
華:自由になったことで、ご本人たちは至って真面目に伝えてくださっているのだけど、ちょっと面白い、ユーモアあふれる作品が増えましたよね。一方で、しんどいことを率直にしんどいと書かれている作品も毎年胸を打たれます。自分だったら、この短い文章にまとめられるかしら、と思います。このコンテストはバリエーションが豊かですよね。
橋:「不幸な家庭はいずれもとりどりに不幸である」(『アンナ・カレーニナ』トルストイ)と言うけれど、幸せな家庭もとりどりに幸せだと、本当にそう思いました。応募作品5万通それぞれが違い、それぞれが幸せという感じがします。
作品を作るのが難しい、と思う方もいると思います。
どのように考えたらよいでしょうか。コツがあれば教えてください。
ゴ:まず漢字を贈りたい人を思い浮かべてもらって、「その人にプレゼントを考えてください。そのプレゼントは漢字です。どんな漢字をプレゼントしますか。それはなぜですか」と問いかけて、書いてもらうかなあ。
や:今回の表彰式にいらっしゃった、ご自身のクラス全員で漢字コンテストに取り組まれたという先生からお話を伺いました。最初に生徒さんの作品を見たところ「もっと本人の気持ちにぴったりの漢字があるのでは…」と思うものが多かったそうです。それで再度、さらに作品を深めていく時間を持たせ完成まで導かれたと。これは素晴らしい指導ですよね。
華:私のワークショップでも、漢字を決めた後、実際に辞書を引くと「イメージと違った」と言う方が多いです。また、何度か書くうちに違和感が出て、字を変える方もいます。ワークショップでは、書いた作品を実際に切手を貼ってポストに投函してもらったこともあります。久しぶりの手紙がすごく喜ばれた、と仰っていた方もいました。
山崎信夫代表理事(以下「山」):感謝を伝えたいから「感」や「謝」にする方も多いですが、1字ずつだとイメージが変わってしまいます。そういった漢字だと、気持ちが伝わりにくいです。
華:日本語の漢字は、訓読みと音読みがあるので、同じ字であっても、人によってイメージが違っていることがあります。このズレの面白さが漢字コンテストでは生きていて、「こういうイメージでこの字を捉えている人がいるんだ」という気付きをもらいます。
や:一人一人のエピソードや体験はそれぞれでも、どこか共感できる、共有できる内容が選ばれている気がします。時代を超え、世代を超えて。
山:「今日の気分で『イチゴ』と書いて」と言われたとき、漢字とひらがなとカタカナに分かれるのは日本人だけの感覚で、外国の方はどの『イチゴ』でも同じと思うようだと聞いたことがあります。
や:川柳、俳句、短歌がまさにそうです。「愛」を使いたいとき、漢字にするのか、ひらがなにするのか、ポップに「アイ」とするのか、とてもこだわります。日本の文化ですね。
第10回の漢字コンテストや応募作品に期待することはありますか?
橋:第10回と言っても、特別なことはないですよ。
ゴ:全国の小中高校で、何かの授業の一環として取り組んでほしいです。この120字というメッセージの長さもよいですね。
華:会社の社員研修にもいいかもしれません。
橋:これこそ、道徳教育なのではと思います。
や:道徳の教科書としてもぴったりですが、書写にも適した題材だと思います。
華:Web応募も増えていますが、手書き文字が見られないのは、やはりもったいないですよね。
ゴ:手書きの字は、人となりが見えるので、その人の字が見たいという気持ちはあります。
山:毎年たくさんの団体応募をいただいているので、第10回は団体賞を新設することにしました。二次審査通過作品の多い団体から選考する予定です。
華:それはいいですね。他の団体の先生方に、指導方法を共有できるよい取り組みになりそうです。
司会:今日の表彰式でも、受賞者の皆さまと作品について直接お話する機会を設けることができました。第10回もたくさんの素晴らしい作品に出会い、受賞者の方ともお話したいですね。本日はありがとうございました。