学校法人、各種教育機関の指導者様へ
団体受検 取組事例
大学・短期大学・専門学校
「一般教養」に位置付けた文章指導実践
中部 / 愛知
学校法人 三幸学園 名古屋医療秘書福祉専門学校
教務課長 桐畑 友香 様
教員 草橋 佳那 様
■ 私たちが目指す教育
三幸学園は全国に64校の専門学校を抱え、学生約38,000名、教員約4,000名が所属する学校法人です。様々な人とのふれあいを通じて、人間的な成長と、技能の習得を両立する「技能と心の調和」を教育理念に掲げています。そしてこの理念を実現するために、生徒一人ひとりの可能性を信じ情熱を持って向き合う「あきらめない教育」を実践しています。本校もこの教育理念に則り、単に知識や技術を研究するに留まらず、人間性を高める教育を併せて展開することで、真に社会に役立つ人材を輩出することを目指しています。
■ 求められる文章力と現状
本校の医療秘書科に在籍する学生は、主に医療事務員や医師事務作業補助者を目指しており、在校中に数多くの文章を作成します。例えば就職活動の際、学生は履歴書に志望動機や自己PRを記入します。そこでは、病院やクリニックの採用担当者に志望理由と自身の長所をわかりやすく伝える文章が求められており、私たちは、どこに出しても恥ずかしくないような志望動機・自己PRが書けるまで時間をかけて指導しています。また、実習の記録や職場見学をした病院・クリニックへのお礼状など、学生は常に何らかの文章と向き合っています。
卒業生や就職先の病院・クリニックの採用担当の方からも、仕事をする上で文章力は必要不可欠であると伺います。例えばカルテを記録する際、SOAP(※1)の考え方にもとづき、事実と評価・方針を整理して記録する必要があります。他にも、紹介状などの対外文書や事故・トラブルの報告書など、文章力が求められる場面は少なくありません。
しかし、本校の学生の多くは文章作成に慣れておらず、文章作成に対する強い苦手意識を持っています。そのせいか、いざ文章を書かせてみても構造的でない伝わりづらい文章が散見されます。
学生の文章力向上は、私たちの長年に渡っての課題でした。加えて近年は、授業を理解するために必要な漢字・語彙の読み書きや数学の知識など、基礎学力の定着に課題を感じることが増えてきました。これらの課題を解決し、授業の理解度を向上させるため、ひいては希望進路を実現して社会で役立つ人材として活躍してもらうため、本校をはじめとする医療秘書系の専門学校全12校で、基礎学力を育む「一般教養」という科目を設定しました。
■『文章力ステップ』を用いた段階的な文章指導
「一般教養」では、年30コマの授業時数の中で、国語と数学の基礎的な問題の演習・解説を行っています。その内12~13コマを文章指導に割いており、『基礎から学べる!文章力ステップ(以下、『文章力ステップ』)』を教材として採用しています。『文章力ステップ』は、文章力を基礎から発展まで学生の現状に合わせて段階的に指導できる点が魅力であると感じています。
文章作成に対して苦手意識の強い学生にいきなりまとまった量の文章を書かせても、かえって苦手意識を強めてしまいます。本校では1年生で文章検4級レベル、2年生で3級レベルの習得をそれぞれ目標としています。最も基礎的な4級レベルは一度に作成する文章量もそれほど多くなく(※2)、苦手な学生も取り組みやすそうにしています。
授業では、文章作成だけでなく、文法や文章読解まで網羅的に指導します。医療事務の授業ではカルテなどの文章を読み取り、その内容を正確に理解する必要があるため、文法・文章読解の指導も疎かにできません。
■ 文章指導の効果と今後の展望
『文章力ステップ』を導入してからまだ日は浅いですが、苦手意識の払拭や文章作成に対する考え方への理解など、少しずつ効果が出始めています。一方で、新たな課題も見えてきました。そのひとつが学生間の学力差です。これは文章指導に限った話ではないのですが、多様な学力の学生が同じ教室で学んでいる本校において、「一般教養」の授業をどのレベルに設定し授業を進めるかはとても難しい問題です。現在はその解決方法のひとつとして、学生が自分のペースで取り組めるよう「一般教養」の授業のオンデマンド化に挑戦しています。まだまだ試行錯誤している最中ではありますが、私たちが掲げる「あきらめない教育」のもと、学生にとってより良い学びを提供し続けたいと考えています。
■ 高校生の皆さんへ
ぜひ、失敗を恐れず新しいものや未知のものに対して前向きに取り組む姿勢を持ってください。本校もそうですが、専門学校ではこれまで全く勉強していない新しい技能・知識をゼロから学んでいきます。それらを前向きに取り入れることができれば、専門学校での学びやその後の人生がより実りのあるものになると思います。
※1 SOAPとは、医療看護の現場でカルテ等を記録する方式のひとつ。数多くの現場で
採用されており、それぞれの項目が混同しないよう整理して書き分けることが求められる。
S(subjective)…対象者が話した内容から得られた主観的情報
O(objective)…診察や検査などから得られた客観的情報
A(assessment)…医師の診断や、S/Oをもとに分析や解釈を行った総合的な評価
P(plan)…Aにもとづいて決定した治療の方針・内容、生活指導など
※2 文章検4級では、100字程度の通信文、320字程度の意見文の作成を求めている。
※掲載内容(所属団体、役職名等)は取材時のものです。